#388 『拾って来てしまったもの』

 家族四人で、とある海岸の潮干狩りへと向かった。

 十歳になる長女と三歳年下の次女は、とても夢中になって貝を掘り当てていた。

 怪異はその晩から始まった。家へと帰り、娘二人は早々と部屋に引き上げる。私達も寝ましょうかと寝室へと向かえば、寝たと思っていた筈の娘二人が部屋から飛び出して来て、私達と一緒に寝たいと言い出すのだ。

 仕方無しに私は夫と一緒に、そしてもう一つのベッドを娘達に貸し与えた。

 消灯して間もなく、隣のベッドから次女のものだろう細い悲鳴が聞こえて来た。何事だろうとそちらを見れば、娘二人は起き上がるようにして部屋の隅を見つめている。

 私は子供達の視線を追う。するとそこにはやけに手足の長い、異常なまでに痩せ細った全裸の女性がいたのだ。

 私は急いで夫を叩き起こす。すると夫もまた驚いた声で、慌てふためくのだ。

 部屋の照明を点けると、忽然と女の姿は消える。なるほど、さっきこの子達が慌てて部屋から出て来たのはこのせいかと気付く。

「今日、なにかあった? 何か拾ったとか、奇妙なものを見たとか、そう言うの無い?」

 聞けば長女は渋々と、パジャマの下から細いチェーンのペンダントを取り出して見せた。なんでも潮干狩りの最中、砂浜の下からこれが出て来たと言うのである。

 翌日、私は子供二人を車に乗せ、近隣の寺の住職の元を訪ねた。そして例のペンダントを渡し、怪異となる出来事を話すと、その住職はうんうんと頷きながら、「このペンダントはただの落とし物です。持って帰っても差し支えないでしょう」と言うのだ。

 じゃあ、昨夜の怪現象は何だったのかと聞けば、「拾って来たのは娘さんじゃなくて、旦那さんの方ですねぇ」と、住職は笑う。

 私はすぐに自宅へと電話する。まだ寝ているであろう夫に「ここに来て」と呼び付けるつもりだったのだが、いくらも待たずに夫はもう一台の車で同じ場所へとやって来た。

 おそらくは、一人でいた所に例の女が現れたのだろう。「もしかしてペンダントじゃなく、俺かも知れない」と、夫は真剣な顔でそう告げるのだった。

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