#274 『舞台女優』
私は、大型チェーンの中古品買い取り販売店に勤めている。
持ち込まれた商品の査定をしていると、時折とんでもない物に出くわす時がある。
先日など、どう見てもどこかの家の遺品であろう物が大量に持ち込まれ、「処分しても構わないから」と、全て置いて行かれた中に、位牌と遺影があった。遺影はにこやかに笑う派手な顔つきの女性である。
「どうします?」と、スタッフに問われて店長が下した判断は、「一週間保管して、取りに来なかったら捨てよう」だった。
だがそこで、「捨てるなら俺がもらってもいいですかね」と、アルバイトの村田君が言い出した。
そんなものどうするのか問えば、「芝居で使います」との事。そう言えば村田君は劇団所属なのを思い出す。
村田君はすぐにどこかに電話して、「やっぱそれ、欲しいそうです」と、その日の内に遺影も位牌も持ち出して行ってしまった。どうやら本当に劇団で使うらしい、近々始まる新しい舞台芝居の小道具として預かる事になったと言う。
やがて本当に公演が始まり、村田君はしばらくの休業を取って店に来なくなった。
さて、その公演で何か不可解な怪異が起こったかと言うと、そんな現象は全く無かったらしい。だが、事件はその後に起こる。
前に、その遺影と位牌を持ち込んだ中年男性が困った顔つきで店を訊ねて来て、「前に持ち込んだ荷物の中に、仏壇用の物が混じってはいなかったか」と聞くのだ。
それには店長と私が対応した。店長はなるべく嘘は吐かない方向で、「ありましたが、売買出来るものではなかったので今は別の場所で保管されております」と答える。するとその男性は、尚も困った顔つきで、「どうか早急に取り戻したい」と言うのだ。
村田君には私から連絡をした。今どこにいてそれを使っているのかと聞けば、今は関西方面で公演していて、来週には九州の方へと行くと言う。
その事をそのまま男性に告げると、頭を抱えてうなり出す。「何かお困りですか?」と店長が聞けば、「夢に亡くなった母が出て来る」のだと言う。
私はそれを聞いて、位牌等を手放した息子に恨みつらみを並べる女性の姿を想像したが、どうやら内容は違うらしい。元は舞台女優だった母が、夜な夜なステージに立って活き活きと芝居をしている夢を見るのだと言う。
なるほどと思った私と店長は、今度こそ隠し事をせずに今の状況を説明すると、その男性は納得行ったと言う顔で、「是非そのままお預かりください」と行って帰ってしまった。
そんな訳で、今尚その位牌と遺影は、とある小劇団の中で小道具として使われている。
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