#273 『食器棚』

 大型チェーンの、中古品買い取り販売店に勤めている。

 私の持ち場は二階の西側にある日用家具コーナーだ。仕事内容は事務と言う名の雑務で、端末処理に伝票処理、そして店内の各所に設けられたカメラで不審者や万引きがないかを監視する事だ。

 ある時、かなり大きめな食器棚が持ち込まれた。その棚は壁の一角に置かれて激安な値札が貼られたのだが、どうにもそれが置かれて以来、妙な事が頻繁に起こるようになった。

 真っ先にその異変に気が付いたのは私だった。

「何これ……」と、モニターを覗き込む。例の食器棚のガラス窓に反射して店内の様子が映し出されているのだが、棚の前には誰もいない筈なのに、何故か人の影がそこにあるのだ。

 その現象は度々起こった。私はその件を店長に告げ、やがて現象は同フロアの数人までもが知る事となる。

「あっ、フクダさんまた何かに取り憑かれてる」と、同僚のミカコが笑いながらモニターを覗き込んでいる。あれ以来、その事実を知っている人は暇さえあればフロアの怪異を見付けては面白がっている。その中でも、フクダ氏の怪異は特別だ。どうやら霊に取り憑かれるのが得意のようで、いつもその背中に何体かの霊をまとわりつかせながら店内を歩いているのである。

「背中にお札でも貼っておいてやろうか?」と、店長。もはや監視用ではなく、観賞用のモニターと化している。

 ある時、とうとうその食器棚が売れてしまった。もちろん例の現象を知っている人達はその事を嘆き悲しんだ。特に店長などは、「もっと高額な値段にしておくべきだった」とまで言う。

 だが、その棚は一ヶ月もしないで再び店へと戻って来た。またしても皆の娯楽へと戻ってしまったが、不思議とまたすぐに売れてしまう。

 結局、棚は三度売れて、三度戻って来た。さすがにその事実には店長も少しだけ恐怖感を持ったらしい。今度は高額の値札と、客に見えないよう裏側にお札(ふだ)が貼られた。

「ねぇねぇ、またフクダさん、霊の数が増えてるよ」と、相変わらずなミカコが私の横で笑う。

 私は「そうね」と言いながら、モニターの方は見ないようにしている。今ではそのミカコも、相当な数を連れて店内を歩き回っている様子が映し出されているからだ。

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