#717 『掘り炬燵』

 昭和三十年代の頃の話である。

 当時十歳かそこらの年齢だった梅ノ(うめの)さんは、自宅の掘り炬燵で奇妙な体験をしたと言う。

 真冬の寒い日の事、学校から帰ってすぐに炬燵へと足を突っ込んだ。そうしてぬくぬくとしていると、ふと梅ノさんの足を触る人がいる――が、見た限り自分以外の人が炬燵に入っている様子が無い。

 何事だと布団をめくって見てみれば、なんとその炬燵の下――当時の炬燵であるので、熱源は火のともった炭である――の灰の中から腕が一本突き出して、それが梅ノさんの足に触れているのである。

 悲鳴を上げる梅ノさん。するとどこに行っていたのか母と祖母が飛んで来て、「何事なの」と聞くのである。

 素直に今あった事を告げる梅ノさん。するとその話を馬鹿にするどころか、二人は渋い顔をして「また出たか」と言うのである。

 何でもその昔、祖母の母――つまりは梅ノさんから見て曾祖母に当たる人だ――が亡くなった。だがそれをとても嘆き悲しんだ長女に当たる人が、事もあろうに火葬した母親の灰の一部を持ち帰り、それをその掘り炬燵の灰の中へと混ぜ、「これでいつも一緒にいられる」と満足気な顔をしたと言う。

 だがそれからと言うもの、その掘り炬燵から手が覗くようになってしまった。

 困った家族は灰を全て捨てて新しいものに取り替えるのだが、それでもまたすぐに手が出て来るようになると言う。

「最近は出なくなったんだけどねぇ」と祖母は言う。

 やがて梅ノさんの家にも電気式の炬燵が導入され、掘り炬燵の方は全く使う事をしなくなったらしい。

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