#193~194 『隙間のある家』
とある事故物件紹介サイトを通じて、比較的近隣に一軒、炎のマークが付いた家を見付けた。
この話は、その情報を元に調べ上げた上で、管理している不動産会社を通じ、正規の手順でその家を内見させてもらった時の記録である。
内見には、僕の彼女であるTと、大学時代の友人であるU田にも同席してもらった。筋書きとしては僕とTとで一緒に暮らす家を探していると言う体で、ついでに暇な友人にも来てもらったと言う設定だった。だが実際は、極力僕が不動産屋の人を引きつけておいて、他の二人が家の中を撮影して回ると言う手はずでもあった。
到着した家は、想像していたよりも遙かに古く、そして大きかった。入ってすぐに違和感に気付く。この家は何かが変だぞと。だがその違和感の正体を掴めないまま、僕らは内部を拝見して回る。
奇妙な間取りの家だった。玄関から続く廊下がまるで迷路のように入り組んでいて、あちこちに物置と呼べるぐらいに小さな部屋が異様なぐらいに多く点在していた。
「ねぇ、この家、なんでどこもかしこも扉が半開きなの?」と、T。そこでようやく僕自身もその家の違和感の正体が分かった。小部屋が多い以上、扉や襖の類いも当然多い訳なのだが、何故か不思議とどの扉も僅かながら隙間をあけているのだ。
気付けば扉だけではなかった。天袋の襖や窓のカーテン。そのどれもが僅かばかりの隙間を作って開いている。特に暗くて中が見えない部屋の扉の隙間は、やけに気味が悪いものだった。
そしてそんな僕達の疑問に気付いたのかは知らないが、内見の案内をしてくれている不動産屋の若いお兄さんは、僕らの一番後方で、片っ端から開いている扉を閉めて回っていた。
何かあるぞとは、他の二人とも察した様子だった。U田が「二階も見ていいですか」と聞けば、案内のお兄さんは慌てて「掃除してないので、お勧め出来ません」と遠回しに止めに入る。それでもなんとか見たいと強気でU田が押せば、「ちょっと上の者に聞いてみます」と、案内のお兄さんは玄関から外へと出て行ってしまった。
そのタイミングでU田は二階に。Tは片っ端から部屋の中をカメラで撮影し、僕は外に出て行った案内の人の様子を伺う。遠くから不動産屋のお兄さんの声がぼそぼそと聞こえて来る。あまり鮮明には聞こえないが、「お客さんが二階を見たいと言ってます」とか、「なんか前の通り、どこの部屋の戸も開いちゃってるじゃないですか」と、かなり不機嫌そうな口調である事だけは覗えた。
事故物件サイトで見付けた近隣の物件に、不動産会社を通して内見を申し込んだ。そして僕と、彼女のT。そして友人のU田の三人でその家へと乗り込んだのだが、何故かその家の扉や襖が、どれもほんの僅かな隙間をあけているのだ。
不動産会社のお兄さんが戻って来ると、「案内させていただいている最中ですが、生憎このお家、先程契約しに来ていただいたお客様がいたそうで」と、無理矢理に内見を打ち切ろうとして来る。そのタイミングでTとU田も戻って来たのだが、どうにも二人の様子がおかしい。
「ねぇここ、頻繁にあちこちで物音がするんだけど」と、T。扉の隙間が怖いので案内のお兄さんと同じように片っ端から閉めて歩いていたのだが、少しするとどこからか「スッ」とか、「ギギ……」と音がする。後で同じ所を歩くと、またしても扉は全て開いているのだと言う。
「二階には行けなかった」と、U田。登れる事は登れる。だが一番上まで行くと、そこの階段の手摺りには“これ以上は行くな”とばかりに注連縄(しめなわ)が張られていて、その下には小皿に置かれた盛り塩までもがされているのだと言う。しかも、一階は見ての通りの空き部屋ばかりなのに対し、二階にはまだ先住者の荷物や家財道具が当時のままのようにして置かれているのが見えたらしく、誰もその二階には踏み込んでいない様子が覗えたそうだ。
Tが押し入れの襖付近で何かをしていた。指先で柱の辺りを引っ掻いているのだ。
「どうした」と近付けば、「ここになんか貼った跡がある」とT。見れば柱と襖戸を繋ぐようにして“何か”を貼った糊の跡。見ればその扉にも同じような跡が見受けられる。
これは本物だなと、誰もが思った。後日、二人が撮った写真を確認すれば、扉の隙間から覗く“目”や、扉の端を押さえる“手”などがあちこちに写っていた。ちなみにそこの家で起きた事故とは、七人家族の内の二人が、二階の部屋の一室で刺殺死体で発見された事に依る。更にもう一人が一階にて自死。そして一緒に暮らしていた筈の他の四人については、未だに行方不明のままだと言う。
その家は現在、借り手が付いたと言う事で紹介物件には出て来てはいないが、実際は今もまだ空き家のままである。
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