#509 『二枚の写真』
これは過去数人に話した上で、誰もが首を傾げて信じてくれなかったと言う不思議な出来事である。
――ある時、使用していたスマートフォンのデータが一杯になったと言う通知が表示された。
大概、何か消さなきゃとは思ったのだが、ダウンロードした曲もアプリも、消して構わないと言うものが一つも無い。
仕方無く私は、画像データを覗く。ここなら何枚かは削除しても良いものがあるだろうと、最新のものから古い方へと遡って確認して行く。すると――
「何これ」と、思わず声が出る。つい最近撮った写真群の中に、一枚だけ得体の知れないものが写っていたのだ。
それは特に変わった所も見付からない、ごく普通の雑木林を撮ったと言うだけの一枚。
決して芸術的でも無ければ、格好良くも無い。なんでこんな無駄な場所を写してしまったのだろうと疑問に思う程の、つまらない風景写真だったのだ。
ただ問題は、私自身がその写真を撮ったと言う記憶が全く無い事。当然、どこからかダウンロードしたと言う記憶も無い。思わずその写真のデータ内容を確認すれば、それはしっかりと私のスマートフォンから撮られた一枚であり、しかも日時は三日前の午後二時。場所はS県某所と表示されている。
三日前と言えば私は当たり前のように職場で仕事をしていたし、それにS県某所は地図で調べても行った事が無い場所であり、もちろんその時間にその辺りを通り掛かる訳も無い。つまりは、“出所不明”の謎の写真となってしまうのである。
一瞬、消してしまおうかとも思った。だがなんとなく心に引っ掛かるものがあり、結局その写真は他の画像データと共にパソコンへと移動して、ほったらかしとなってしまった。
それから約半年ほどの時間が流れた。ある時、友人に誘われて隣の県のC市へとキャンプに出掛けた。
車を降り、山道を登る。運動不足の私は早々に音を上げたのだが、先頭を歩くまだまだ全然元気な友人が折り返して私の元へとやって来て、「ちょっとスマホ貸してくれない?」と言うのだ。
どうしてだろうと私は思った。彼女自身もちゃんとスマホは持っている筈なのにと思いながらも渋々と私のものを手渡すと、彼女は私の目の前の雑木林を一枚、写真で収めて返して来るのだ。
その時は、彼女の何かの冗談だと思ったのだ。だがその時に撮られた一枚が、その後にとんでもない事実に行き当たる。
キャンプ地での夜、友人の撮った一枚を見返す。それは何度見ても、前にデータだけで残されていた例の“出所不明”の一枚にそっくりなのだ。
家へと帰って、パソコンに残されたデータと照合してみる。するとそれは似ているどころではなく、どこにも相違の無い“同じ写真”だったのだ。
写真データの撮影場所はまさにS県某所で、何もかもが同じ場所。ただ、撮られた日時だけが半年間を経ているのである。
さて、その写真を撮った肝心の友人だが、なんとなく想像していた通り、「そんな事してないよ」と言い張るのだ。
私が例の写真について記憶が無いのと同様に、彼女もまたその写真を撮った時の記憶が無かったのである。
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