#521 『生きてるか?』

 某SNSでの話である。かつてそのSNSは紹介制と言う目新しさで大流行を収めたのだが、今では他のSNSに押されて酷く過疎っている。

 実際僕自身もまだそこにアカウントは残しているのだが、もはや余程の事がない限り、ログインする事も無い有様である。

 とある夜、友人からの連絡で、Tの写真があったら送って欲しいと頼まれた。

 持ってはいないが探してはみると、僕は珍しくそのSNSを開いた。かつてはそこで、Tとも交流していた事を思い出したからだ。

 開けば、未読のメッセージが数十件も溜まっている。そう言えばもう二年以上は放置だったなと思いながらフォルダを開けば、そこにはずらっと未読のマークが並んでおり、その全ての宛先が、まさに今から探そうとしていたTからのものだった。

 開こうとして、手が止まる。酷い矛盾に気が付いたからだ。

 Tはもういない。彼が他界して、既に三年程は経っている。先程の友人の頼みも、Tを偲ぶ会に使う写真を探してくれと言う頼みだった筈。そう言えば僕自身も、彼が亡くなった事を思い出したくなくてこのSNSから遠ざかった筈だと気が付いた。

 未読の最新メッセージは、二日前である。見ればTからのメッセージは、週に一度のペースぐらいで送られ続けている。

 震える手で、その最新をクリックする。するとそこにはたった一言、「生きてるか?」と記されていた。

 翌日、僕は部屋に友人を呼んだ。パソコンの取り扱いにはとても詳しい奴だったからだ。

 依頼内容は一つ、Tの振りをして僕にメッセージを送っている奴を突き止めてくれ……であった。そしてその友人は、簡単に承諾してくれた。

「個人情報までは抜けないが、同じSNSを使っているとしたら、その特定ぐらいは出来るよ」と、友人は言ってくれた。

 さて、その日の夕方。友人はあっと言う間に解析を終え、「見付けた」と笑顔でそう言った。

「誰だよ」聞くが、「ちょっと待ってて」と笑いながら、なかなか教えてくれない。

 だが、やがてその友人の笑顔が曇る。そうして両手で口を押さえながらしばらく黙り込むと、「ちょっとコンビニ行って来るわ」と、部屋を出て行ってしまったのだ。

 だがその友人、ものの数分で戻って来る。どう考えてもコンビニまで行き来したであろう時間では無い。

「どうしたの?」聞けば友人は、「俺、今日はここ泊まるわ」と言う。

 まぁ、それは構わないが理由を教えろと僕が詰め寄ると、友人曰く、「こりゃあ手に負えないから」と、苦笑いをするのだ。

 翌朝、友人は帰る準備を整えた後、「一緒に行こう」と僕を促す。

「どこに?」聞けば友人曰く、「お寺か、神社。祓えるんならどこでもいい」と言うのだ。

 訳も分からず「説明してくれ」と言えば、友人曰く、「Tのメッセージは、ここのパソコンから書かれている」と、僕のノートパソコンを指差した。

「証拠もある」と、彼はスマホの動画を僕に見せる。それは昨夜、彼がコンビニに出掛けた後、パソコンに向かって何かをタイピングする僕自身の姿が捉えられていた。

 友人が撮った映像の時間と同時刻に、やはりTからの最新メッセージが入っていた。

「まだ生きてる?」と、たった一言。もちろんそんな記憶は僕の中に一切無い。

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