#134 『時の止まる喫茶店』

 僕には、お気に入りの喫茶店がある。

 大通りからは外れていて、しかも外観からそこが喫茶店だとは気付かない、とても穴場な喫茶店なのだ。しかも外観も内装も非常にレトロで、居心地が驚くほど良い。特に窓際の席に座ると眼下を走るローカル電車が見えるため、とても非現実的な気分に浸れる店なのだ。

 その店にだけは、下世話な人は来て欲しくない。だから僕がその店を紹介したり、連れて行ったりするのは、粋が分かる友人ばかりだ。

 ある時、女友達と一緒にその店を訪れた。彼女もまたいたくその店を気に入ってくれたらしく、それ以降、時々ふらりと一人で遊びに行く事もあると言う。

「あの店にいるとさぁ、なんか時間が止まっているって言うか、流れを感じさせないんだよねぇ」と、その彼女は言う。言われてみればそんな気もする。かなり長い時間をそこで過ごした筈なのに、いくらも経っていないと言う経験が度々あったからだ。

 ある日の事、その彼女と一緒にその店を訪れ、他愛もない話でお茶をしていた時だった。カラコロと鈴の音がして、四人の若い男性客が訪れた。

「うっわ、すげぇ。本当にレトロ」

「なんか懐かしいような気がする」と、まるで僕らが最初に来た時のような感想を述べているのが可笑しくて、僕と彼女は笑い合う。そうしてしばらくする内に、いつの間に帰ったのか先程まで向こうの席でにぎやかだった四人組の客は、いなくなっていた。

 ただのんびりと時間が過ぎて行くだけ。落ち着くねぇ、時間の流れが止まってるねぇと彼女と笑い合っていると、カラコロと鈴の音が聞こえて来て、四人の若い男性客が入って来た。

「うっわ、すげぇ。本当にレトロ」

「なんか懐かしいような気がする」と、なんだか既視感たっぷりな事を言う。そして先程まで客のいたテーブルに着くと、先程の客と同じように、カレーと珈琲のセットを注文していた。

 帰る頃になり、またしても忽然と客が消えている事に気付く。

 これは時間が止まるどころか、逆行してるねと彼女と言い合いながら店を出ると、入れ違いのようにして四人の若い男性客が店へと入って行くのが見えた。

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