#135 『廊下を走るべからず』
都内にある某大型書店でのお話し。
店内奥にあるバックヤードの廊下に、一カ所だけ妙な場所がある。それはかなり簡易的に作られた両開きのドアで、かなり大きめな注意書きで、「開放禁止」と書かれている。
正直、どうしてこんなドアが必要なのだろうと、疑問しか浮かばない。倉庫から店内へと商品を補充する際にはほとんど台車か両手が塞がるような大荷物なのだから、こんな廊下の途中にドアを設置する必要性が分からない。それにこれはどう見ても後付けで出来たドアなのだ。普通の感覚で考えたならば、まるで従業員いじめの為のドアみたいなものである。
だが不思議なのは、そのドアを開けた先にある“もう一枚”のドアの存在である。
ドアを開ければ、数メートルほど先にもう一つ、全く同じ造りのドアがある。しかもそちら側にまで、「開放禁止」の張り紙がある。更にはそのドアとドアの中間地点にある廊下には、「廊下を走るべからず」と言う注意書きまでもがあって、こんな短い距離をどうやって走るのだろうと、なかなかに頭を悩ませてくれる。
だがある時、その謎が一瞬にして解明した。僕が台車で荷物運んでいた時の事だ。ドアを開けて向こうへと行こうしたその瞬間、ほとんど同じタイミングで向こう側のドアを開けた人がいた。
瞬間、向こうとこっちで、お互いに目が合った。僕は同時に何故か、「あ、やってしまった」と言う感覚に襲われた。その次の瞬間だった――
ダダダダダダダダダっ――と、けたたましいと思える程の勢いで、あっちとこっちの開放されたドアの隙間を駆け抜けた“足音”が轟いた。どころか向こうのドアを開けた人などは、持ったダンボール箱と一緒にもんどり打って倒れ込んでいたぐらいだった。
それで、このドアの意味は理解出来た。だがその肝心の足音の方が理解出来ない。
それから少しして、張り紙の下にお札が貼られるようになったが、依然、被害者の数は減っていない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます