#50 『鳥居』

 子供の保育園仲間であるママさん達と、子連れで散歩をしていた時の事。

 少し高台に位置する場所に、とても綺麗な神社があると言うので行ってみた。行くまでの上り坂と神社手前の石段がとても急で難儀はしたが、登ってみると確かにそこは手入れの行き届いている美しい神社であった。

 中でも目を惹くのが、同じ形のものが十数個も連なる鳥居で、思わず誰もがスマホを取り出し撮影したくなるほどに“映える”場所であった。

 子供達もそんな鳥居を面白いと思ったのか、四人でその鳥居の柱の間を縫うようにしてジグザグに走り始めた。「危ないよ」と言う私達の声などまるで耳には届いてない様子で、きゃあきゃあと言いながら一番奥まで走り切る。

 そこで気が付いた。一人足りない。確かに鳥居の間を走り始めた時は四人だったのに、戻って来たのはたった三人。一体どのタイミングなのだろうか、私達の見ている前で一人の子供が消えてしまったのだ。

 慌ててその子の名前を呼び、辺りを探す。そんな私達に気付いたのか、社務所より神主さんが駆けつけて来てくれた。そうして神主さんは鳥居の真ん中辺りまで行き、一本の柱に顔を近づけると、大声で何かを話し始めた。

 やがてその神主さんの真横から、湧き出るようにしていなくなった子供が現れた。神主さんいわく、「さっきとは逆方向に縫って走って来なさい」と伝えたのだそうな。

 鳥居は“境界”である。連続した鳥居は、連続した世界の境界線であると神主さんは教えてくれた。

「本当はこの隙間を覗くのだって危険なんだよ」

 以来、私はどの神社に行っても、鳥居の付近ではよそ見をしなくなった。

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