#144 『誰かいる』
地元の山の奥に、“おんとぉば屋敷”と呼ばれる一軒の廃屋がある。
かつてはそこに一人の男が暮らしていたそうだが、病気で孤独死して以来、誰も住まなくなった家である。
当時、私はまだ中学生であった。一つ上に兄がいるのだが、ある時、その兄と私、そして兄の友人達数人とで、おんとぉば屋敷に行こうと言う事になった。
車も通れないだろう細い山道を登り詰め、ようやくその目的地である廃屋が見えて来た。
想像よりはずっと大きな家だった。なんでもそこに住んでいた男が一人で作った家だと言うのだが、とても素人の大工仕事には思えないほどの立派さだった。
一体こんな木材、どこから調達したんだろう。家財はどこから持って来たのだろう。むしろ食材とかはどうやって? 家の中を探索しながらも、そんな謎は尽きなかった。なにしろ、狭いながらもそれは一般の家庭とあまり変わらないであろうほどの物が揃えられていたからである。
玄関から入ると、まず最初に居間があった。単に卓袱台(ちゃぶだい)とラジオが置いてあるだけの部屋であったが、丸めて捨てられている紙くずが散乱している以外には、気に留めるものは無かった。
奥にはおそらくそこで亡くなったであろう床の間があった。布団が丸められて紐で縛り付けられているのは、きっとそれなりの理由があるのだと推測された。
皆で「紐、解けよ」とか、「祟られるぞ」とか言い合いながら騒いでいたのだが、突然兄が「もう出よう」と、こわばった顔でそう言い出した。
当然、兄の友人達は反対した。来たばっかじゃん。もっと色々調べようぜと口々に文句を言うが、兄は頑として聞かず、むしろ強行的に皆を外へと連れださんぐらいの勢いで「出よう」と言うのだ。
結局、勢いに負けて皆で外へと出た。心なしか兄の手は小刻みに震えていて、歯もカチカチと噛み合わない。間違いなく“何か”に怯えている様子だ。山を途中まで下り、ようやく兄が落ち着いて来た所で、その理由を聞く事が出来た。
「居間で、紙くずが丸まって転がってたの、気付いたか?」と、兄。どうやら兄はその紙くずを拾って広げて見てみたらしい。
「日めくりカレンダーの切れ端だった」と兄は言う。しかも肝心のカレンダーの方は床の間の方に掛かっており、見ればちょうど今日の日付となっていたのだと言う。
「まだある」と、兄。居間にあったラジオは、カセットテープも入るタイプのものだったらしい。
「中にはテープが入っていて、そして録音ボタンが押されていた」と、兄は怯えた声でそう言った。
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