#233 『守護者』

 高校で、早紀と言う名前の子と知り合った。

 第一印象は、「驚いた」としか言いようがない。何しろ彼女の身の回りを、金魚が浮遊していたのだから。

 その金魚は、いわゆる“小赤”と呼ばれる、縁日屋台の金魚すくい用の魚だ。ただどうしてその金魚が、彼女の周りを泳ぎ回っているのか。全くもって理解が出来なかった。

 だが不思議と、知り合ってすぐに早紀とは仲良くなった。どうやら向こうも私とはウマが合うと思ってくれたらしい。以降、彼女とはどんな行動も一緒に取るぐらいになっていた。

 ある時、私がその金魚を目で追いながら彼女と話をしていると、「もしかして“ヨッピ”見えてるの?」と早紀に聞かれた。私はそれに対し、「ヨッピって、この金魚の事?」と返した。

 ヨッピは、早紀が物心付く前から一緒に付いて回っていたらしい。何しろ両親から、「あんたは赤ちゃんの頃から“何か”を追っかけてたからねぇ」と言われていたらしいからだ。

「ヨッピの事見えてるの、私以外ではあなたが初めて」と、早紀は言う。

 どうやらヨッピは早紀の守護者らしく、悪意を持って近付いて来る人には容赦なく口で突くらしいのだ。

 私達は高校卒業後、別々の大学へと通うようになった。それでもお互い相変わらずの大親友で、暇さえあれば逢う時間を作っていた。

 ある日、「早紀は彼氏作らないの?」と聞いた所、「いい感じの人は何人かいた」と笑った。でも不思議とどの男子もヨッピが気に入らなかったらしく、近付けば片っ端から口で突くのだと言う。

「しょうがないよねぇ、ヨッピは私の守護者だもんねぇ」と、早紀は諦め顔で笑う。その周りを、ヨッピは他人事のようにしながら優雅に泳ぎ回るのだ。

 それから数年が経った。都合で遠くへと引っ越した早紀から、「結婚しました」と言う連絡が届いた。

 メールに添付されて送られて来た写真には、早紀と、大人しそうに微笑む男性が写っていた。

 なんとなくだが、守護者はバトンタッチされたのではと私は思った。写真のどこを探しても、赤い金魚の姿は見当たらなかったからだ。

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