#674 『郷土資料館』

 二つ年下の妹と一緒に、地方へと旅行に出掛けた時の事。

 乗ったバスが道の駅へと到着し、私と妹はそこで降りた。

 小雨の降る平日の昼である。道の駅自体そんなに大きくもなかったのだが、想像以上に客は少ない。私と妹は店内を冷やかしながら歩いたが、何も欲しい物を見付けられないままあっと言う間に一周してしまった。

「ねぇ、向かいに何かある」と妹。見ればどうやらそれは郷土資料館のようで、次のバスが来るまで見学しようかと言う事になった。

 足を踏み入れれば、外の暗さよりももっと暗い館内だった。受け付けにはこれまた暗そうな性格の中年女性が一人きり。私と妹は二百円の入館料を払い、入場用の扉をくぐった。

 館内はのんびり眺めて歩いても、二十分は掛からないだろう程度のものしか置いていなかった。私は特に興味も惹かないこの地方の歴史や出土品などを横目に歩く。やがて外の雨が本降りとなったか、館の屋根を打つ雨音がやけに激しく聞こえて来た。

「お姉ちゃん、どうしよう――」と妹が話し掛けたタイミングで、一瞬だけ館の窓が真っ白に発光した。そして間髪入れずに響く轟音。同時に館内の照明が全て消えた。

「いやあっ!」妹の悲鳴。私もかなり驚いたが、妹を助けたい一心でなんとか堪える事が出来た。

 妹に手を貸し、外からの微かな光を頼りに館の出口を目指す。そして重い入場用のドアを開けて受け付けまで出ると、いつの間にか窓口の女性の姿が無い。

 館の入り口であるガラスのドアは、打ち付ける雨のせいで景色が斑に見える程だった。とてもじゃないが、傘があっても出て行ける雨量ではない。

 どうしようかと思っていると、背後で入場用のドアが開く音がする。振り返ればそのドアの隙間からこちらを覗く人影が一つ。

 もう無理だと私は思った。そしてそれは妹も同じだったらしい。ずぶ濡れになるのを覚悟で入り口のドアを開けると、そのタイミングでバスが目の前に停まった。

 バスの乗車口が開く。私達は急いで乗り込む。バスの運転手さんは私が乗り込んだそのタイミングでドアを閉め、「何かに掴まって!」と強い口調で言い、すぐにバスを発車させた。

 見れば乗客は五、六人ほどが乗っていた。そしてその乗客の全員が、同じ方向を見ていた。――そう、郷土資料館の方を、である。

 何も言わずバスを走らせる運転手。やがて駅前へと到着すると、誰もが無言でバスを降りた。

「大変な目に遭ったね」と、降りる間際に運転手は言ったが、私には意味が分からない。だが駅前の喫茶店へと落ち着いた後、発車したバスの窓から外を見たと言う妹の言葉に、私は凍り付いた。

「あの建物、火事か何かで燃えたんだろうぐらいに真っ黒だった」

 妹が言うには半焼程度の燃え方で、屋根と壁はほとんど崩れ落ち、柱と枠ばかりの素通しな建物となっていたと言う。

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