#17『土着信仰・一』

 私がまだ幼かった頃の話。深夜、山形から新潟方面へと向かう山中の道路を、親父の運転する車で移動していた。

 寂しい山道だった。おそらくは地元民ぐらいしか知らないであろう道で、民家どころか人の手が入った形跡もないような森林ばかりの道が続いた。

 当然、街灯などは無い。どころか道の脇のガードレールさえも無い。道幅は車一台分程度しかなく、もしも対向車などが来たらどう避けるのだろうと言う心配さえあった。

 途中、右手に川が見えて来た。深夜の川はやけに怖いなと思いながら眺めていると、その向こう岸に小さな明かりが見えた。

 明らかにそれは人の手による明かりであった。提灯か、それともランタンか。その程度の薄暗い明かりであった。

 私はすぐにその明かりを指さし、「誰かいる」と叫んだ。だが親父はそちらの方向は見ようともせずに、「やめなさい」と私を制止した。

 見ない、言わない、気付かないふりをしていろと、いつになく怖い口調の父。私はそれにただならぬ理由を察し、明かりが通り過ぎるのを待った。

 後で思えば、その明かりはおかしい所ばかりだった。川に降りられるような道は見当たらないし、周囲に車が停まっていた形跡も無い。それに人の足で真夜中に訪れるような場所でも無い。しかも足場の悪い河川敷に、あの程度の明かりで降りられる訳もない。

 後日、あれは“森に棲む者”だと聞かされた。詳しくは教えてもらえなかったが、関わりを持つと引っ張られてしまうものだと、そう言われた。

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