#18 『土着信仰・二』

 東北の片隅の山間部に、“むじら様”と言う神が棲んでいる。

 私が幼い頃、昼夜を問わず、山の奥から地響きを伴って轟音が聞こえて来る事があった。

 祖母はそれを、“むじら様”と言った。同時に、お前はその名前を口にするなとも。

 ある日曜日。それはとてもとても暑い夏の午後の事。山のどこかで地響きを伴う轟音が響き渡った。それに遅れて、近所に住む年上の男子達が山へと向かって登って行くのが見えた。

 夜になり、村は騒然となった。子供が数人、行方不明だと言う。聞けばそれはどれも、昼間に山へと登って行った連中の名前ばかりだった。

 私がその事を告げると、村人は全員、何かを悟ったかのように押し黙った。

 私がその一件で、本気で怖いと感じたのはその後の事だった。捜査に当たった警察官達に村人が“むじら様”の名を出した途端、警察官達も何かを悟ったかのように捜査の打ち切りを告げる。

 法よりも、土着信仰が勝った瞬間だった。

 それから数日後、行方不明の子供達の数人が自力で山を下りて来た。だがその子供達の姿を、私は結局一度も見ていない。

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