#162 『死んでましたよ?』
暗い午後だった。嫁と娘は車で買い物。息子は自転車でどこかへと遊びに行ってしまった。
金も無ければどこかへと行きたいと言う気力も無い。俺は仕方なく一人、リビングの床でごろ寝をする。
雨でも降るのだろうか、まだ二時にもならない時刻だと言うのに外は真っ暗だった。
いや、気が付けば家の中まで真っ暗だ。テレビも照明も点いていない家の中は、独りでいるには少し怖いぐらいの暗さで満ち溢れていた。
かと言って立ち上がって電気を点けに行くのも面倒くさい。どうしたものかと思っていると、突然ドアフォンのベルが鳴る。静寂の中で鳴ったせいか、驚いて俺は跳ね上がった。
ピンポーン ピンポーン――と、ベルは数度に渡って鳴り響く。日曜の昼間に来るやつなんてどうせ集金か何かの勧誘だろう。同時に、驚かされたと言う腹立ちもあり、俺はそのベルを無視する事に決め込んだ。
だが、なかなか鳴り止まない。とても一定の間隔で延々とドアフォンを押し続けているらしい。少しだけ気になった俺は、そっとリビングの窓へと近付きカーテンの隙間から外を覗く。そこからだとちょうど、ドアフォンのある場所が見えるのだ。
「えっ?」と、思わず声が漏れた。誰もいないのだ。ドアフォンを設置しているのは、表にあるポストと併用している細長い鉄柱だけだ。もしそこのドアフォンを鳴らしているのならば、その鉄柱以外に隠れる場所などどこにも無い。
尚も鳴り止まない音に、どう言う事だと頭を悩ませていると、さっきまで一定のリズムで鳴っていたベルの音が突然、狂ったかのように連打された。
ピポピポ ピポピポ ピポピポ ピピピピポピピポ――ビビビビビビビ――
最後の方はもう、連打などではなく壊れた電子音に近かった。俺はそれに対し恐怖心もあったのだが、一体何が起きているのかと言う疑問と、もしも悪戯だとしたら許さないと言う怒りまでもがあったのだ。
猛然と玄関へと向かう。ガチャリとドアを開けて外を見る。
同時に、暗かった世界が真っ白に輝き、派手な火花と同時にバラバラと電線が降って来た。
そして轟音。地響きのような振動で俺は腰がくだけ、玄関先で派手に転がれば、続いて水道管が破裂でもしたかのような狂った雨が降り注いだ。
――数時間後、さっきまでの夜のような暗さは消え去り、馬鹿みたいな青空と水たまりの中、電気屋が乗る高所作業車が到着した。
俺は呆然としながらその作業員に声を掛け、先程の一件を話して聞かせた。するとその作業員、にやりと笑って、「外出なくて良かったですね」と言う。
「外出てたら、きっと死んでましたよ?」
どうやら全ては雷の前の前兆だったらしい。
全く怪異でもなければ心霊でもない話ではあるが、とても怖い話ではあるので掲載しておこうと思う。
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