#276 『巨大な顔』

 幼い頃から、姉はとても不思議な能力で大人を困らせていた。

 何故か、姉は人の死を予兆出来た。「今夜、あそこの家で誰かが死ぬよ」と言えば、それは必ず当たった。

 家族の皆はその予言をとても嫌がり、「家族の者以外には話すな」と、いつもそう厳しく言い聞かせていた。だがやはり子供のする事である、どこで漏れたか、いつしか「あそこの家の娘は人を呪い殺す」とまで噂されたらしい。

 ある時、姉は私にその秘密を教えてくれた。

「巨大な顔が歩いて来るんよ」と、姉は言う。なんでも家の中から見たならば、窓枠一杯でも収まらないぐらいの巨顔が外から覗き、じろりと室内を見回した後、何かを呟き立ち去って行くと言う。そうして姉は急いで外へと飛び出して巨顔の後を付いて行けば、どこか任意の家の前で立ち止まり、無理矢理に中へと押し込んで行くのだそうな。

「そうすると、その家の誰かが死ぬ?」

「そう、だから私のは予言でもなんでもないんよ」と、姉は笑った。

 中学生になった頃の事だ。私は蒼白な顔で家へと帰って来た姉を見て悟った。

「もしかして、この家に入った?」聞けば姉は、うんでも、いいえでもない素振りで、「私と一緒に入って来た」と私に告げた。

 夜、私は姉に呼ばれて部屋へと向かった。

「あんた、もし私と同じように大きな顔を見たら、絶対に付いて行っちゃだめよ」と言い残し、姉は日をまたがずに亡くなった。

 それから少しして、とうとう私もその巨顔を見るようになってしまった。

 だが、姉の言いつけ通りに何もかも見なかった事とし、今尚生き長らえている。

 だが時々、街角で大きな顔を見付けて目で追ってしまう事はある。

 結局あの大きな顔が何者なのかはまるで分からないのだが、いつもそれは長い白髪頭の老女の顔なのである。

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