#109 『連れて来た』
長らく病院で寝たきりだった祖父が亡くなった。
葬儀も済み、四十九日法要も済み、五十日目になったら祖父は私の前に現れた。
風呂上がりに部屋で髪を乾かしていると、いつの間にか堂々と部屋の真ん中に座っていた。とても穏やかな笑顔で私を見つめ、「今日はお前と話をしに来た」と告げる。
嫌だ、出て行って。そう返すと、祖父は溶けるようにしながら床に染み込んで行った。生前は話し掛けてもほとんどろくな返事もしなかったくせに、今頃になってなんなんだろうと私は思った。
翌日、祖父は二人で現れた。もう一人は見た事の無い老人だ。何故か身振り手振りが無駄に大きい、うっとうしいタイプの老人のようだ。
「お前の話し相手に、友達を連れて来た」と言うが、とても余計なお世話だった。
その翌日になると、更にもう一人増えていた。出て行けと言うとすぐにどろりと溶けて消えるが、毎晩そんな感じなのでとても辟易した。
十日を過ぎると、祖父の友人で部屋中が埋まった。さすがにもう限界だと感じた私は祖母にその事を話すと、「あの助平が」とやけに憤慨し、例の白鞘の日本刀を持ち、私と入れ替えに部屋で待ち構えた。
深夜、部屋の中で罵声が聞こえた。そしてそれに続く金切り声のような悲鳴。私は慌てて部屋へと飛び込むと、今まさに祖父が一刀両断されて消えゆく瞬間だった。
「もう当分来ないよ」と祖母は言うが、祖父もまた祖母同様、なかなか特殊な人間だったのかも知れないと、私はその時そう思った。
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