#745 『パーキングエリア』

 とある高速道路のパーキングエリアで体験したお話し。

 夕方に家を出て、翌朝までにとある地方へと到着する予定であった。

 だが先程眠気覚ましにとガブ飲みしてしまった清涼飲料が災いしたか、強烈な腹痛に襲われながらの運転となってしまった。

 時刻はとうに零時を回り、走る車は長距離のトラックばかり。私は次のパーキングの案内看板を睨み、後何キロだと汗を拭きつつ走行する。

 やがてようやく車線の分岐が現われ、私はなるべくトイレに近い場所に車を停めて駆け下りた。

 トイレは想像するよりもかなり広いものだった。男性用便器のコーナーを避け、個室の方へと向かう――が、何故か個室の方の照明がやけに暗い。しかも深夜と言う時間帯のせいか、利用客は私以外に誰もいない。私はなんとかその一つに落ち着き、腰を下ろして用を足した。

 あぁ、間に合った。そう思って安堵していると、カツ――カツ――カツ――と、響く靴音が遠くから聞こえて来た。

 そしてその靴音は私のいる個室の前で止まった。

 コンコン――と、ドアがノックされる。

 えぇ、まさか? 私は驚き、コンコンとノックを返しつつ、「他、開いてませんか?」と聞いてみた。が、外からの応えは無い。

 なんだこいつ。思っているとまた、コンコン――とノック。

「あの、ちょっと腹下してるんです。他の個室、開いてませんかね?」聞くがやはり返事は無い。

 なんなんだよ、嫌がらせかよ。思っているとまた、コンコン――と来る。次は私も少々不機嫌になり、ドンドンと強く叩き返しながら、「入ってますよ!」と声を荒げた。

 だが外の人間もまるでひるむ事なく、定期的にコンコン――とノックをする。大概嫌なやつだなと思い、なるべく早く用事を切り上げると、「どうぞ!」と苛立ちながらドアを開けた――が。

 いない。ドアの外には誰の姿も無い。

 代わりに私がいた個室以外は全て、ドアが閉め切られていた。先程まで誰もいなかった筈なのに。

 ぐるりと私の腹が鳴る。が、私はその痛みを懸命に堪えてトイレから駆けて出た。

 とある地方のパーキングエリアでの出来事である。

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