#436 『理不尽な解雇の話』

 料理系の専門学校を経て、家から二駅向こうの弁当屋に就職する事となった。

「ウチはなかなかハードだよ?」と脅されつつも、私は念願の料理人として働ける事に意欲を燃やしていた。

 だが、仕事は初日から問題発生となってしまった。オムレツの中に、玉子の殻が混じっていると言うクレームが相次いだのだ。

 その日、オムレツを焼いたのは私一人。当然、疑う余地なく私が怒られた。

 二日目、「充分注意して」と言われたのも関わらず、またしても殻の混じるクレームが複数件。オーナーは、「慌てなくていいから、しっかりやって」と怖い顔。ベテランのパートさんなどは、「最近の子は玉子もまともに割れないのかねぇ」と、聞こえるように皮肉を言う。

 私ってそんなに下手だったのかなぁと落ち込んでいると、その日の閉店後に、「みんな来て」と、オーナーの奥さんが、私を除く全員を呼び集めたのだ。

 さすがに、使えない奴は解雇すると言う話だろうと私は察する。だがその話の中身は若干違うようで、皆はノートパソコンのモニターを眺めては驚きの表情を浮かべているのだ。

 後日、仕事が始まる前にオーナーに呼び出され、想像通りに解雇を告げられた。

 但し、原因は仕事の不手際ではないらしい。むしろオーナーとその奥さんには平謝りされ、「ウチとは相性が良くなかった」の一点張りで、解雇理由も告げられずに追い出されたのである。

 パートのおばさんは遠巻きに私を眺め、「次の職場で頑張って」と送り出してくれた。

 二日間しか働いてなかったにも関わらず、振り込まれた金額は三ヶ月分の満額で、どうしても理由を知りたい気持ちで一杯だった。

 それから少しして、私は個人経営のレストランで勤める事となった。そちらでは玉子の殻どころか特に何のミスもなく、上手く仕事はやれていた。

 ある日の事、オーナーシェフに呼び止められ、「以前、××って言うお弁当屋さんで働いてた?」と聞かれた。

 私がどぎまぎとしながら「ハイ」と答えると、オーナーはにっこり笑って、「ならウチとは相性が良いみたいだね」と言われた。

 但し、私にだけ特別、「店の防犯カメラの映像は決して観ないように」と厳重注意された。

 そこでようやく気付く。以前の弁当屋で皆が見ていたものは、店のカメラの記録映像だったのだろうと。

 だが今以て、そこに何が映っていたのかは知らされていない。

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