57章 魔族はお祭り優先
800. 星降祭りは集団見合い
魔王軍が散らばって各地の情報を集め、精霊やドライアドが森の魔力を分析し終えるまで、ルシファーの外出は一切禁止となった。逃げ場を奪われた魔王は、膝にお姫様を乗せてお茶を飲む。祭りの続きを行う準備をしている大公2人の邪魔をしないよう、執務室に軟禁状態なのだ。
「陛下、星降祭りは行われますか?」
「……どうだろうな。そんな場合じゃないとアスタロトに一蹴される気がする」
ルーサルカは楽しみにしていた祭りの開催が危ういことに、俯いて肩を落とす。シトリーがぽんと肩を叩いた。魔の森から魔力が消えたとベルゼビュートが飛び込んだあの日、もし何もなければ夜は星降祭りが行われる予定だった。
実際に星が降ってくる祭りではなく、これは集団見合いの隠語なのだ。適齢期で婚姻相手を探す女性魔族を連れた先導役の貴族が、偶然を装って男性達が飲み会をする家を回るのが慣習だった。その際に気が合えば女性はその家に残り、互いを知り合う機会とする。彼女に気のある男性も残り、それ以外は貴族に連れられて次の家に向かうのだ。
繰り返すうちに、複数の男女カップルが生まれる仕組みだった。なお、この祭りは魔王城で企画したものではない。5万年ほど前の貴族が可愛い愛娘の嫁入り先を探そうと、即位記念祭で飲み明かす男性の間を回った行いが引き継がれた。なお、その娘が見事な旦那を捕まえ、爵位も上がる功績を上げたことで有名になったのが、このイベントの発祥だ。
いつの間にか恒例行事として、即位記念祭4日目の夜は「星降祭り」と称して盛り上がる慣習になってしまった。ベルゼビュートが精霊たちに祭りを見せようとしたのは、外に出ない精霊同士の交流を深める目的があり、また10年に一度の集団見合いの見物も兼ねている。
精霊というのは噂好きな近所の奥様のような性格をしているのだ。人の色恋話をリアルに体感して噂のネタを見られると知ったら、野次馬根性丸出しで参加希望が殺到した。そんな精霊の頂点に立つのに、いまだ未婚で噂もない女王の恋話が見られるかも……精霊たちは毎回期待に胸を躍らせて参加するのだ。
そんな祭りの中身を知ってから、ルーサルカとシトリーは密かに楽しみにしていた。すぐに結婚する気はないが、恋人くらい欲しいし、婚約者のいるレライエやルーシアが羨ましい。互いに最後の1人になりたくない本音もあった。
「私としては祭りを行った方が、雰囲気が明るくなって好ましいと思いますけれど」
同僚の切実な思いを知るルーシアが、侯爵令嬢らしい上品な言い回しで援護する。レライエは膝の上の翡翠竜のハゲを撫でながら、ルーシアに追従した。
「その方が盛り上がりそうです。祭りの景気づけに行った方が良いのではありませんか?」
ぽんと手を叩いたリリスが、膝の上でもぞもぞと向きを変えた。後ろ抱きから横抱きに移動すると、純白の髪を掴んで引っ張る。ルシファーの銀の瞳を見上げる金瞳のお姫様は、にっこり笑ってお強請りした。
「ルシファー、素敵なお祭りだと思うの。10年に1回なら、皆に楽しく過ごして欲しいわ」(面白そうじゃない)
後ろの本音に気づかないルシファーは「なんて優しい」と感動している。あっさり騙されたルシファーの姿を、少女達は「なんてちょろい」と苦笑いで見守った。
「よし、城下町への外出許可を取るぞ!」
「私も協力するわ!!」
手を握って喜ぶ魔王と魔王妃を見ながら、ルーサルカは複雑な思いを押し殺す。この2人が先導役をしたら、未婚男性が誰も名乗り出てくれないんじゃないかしら……。その予感は、ほぼ予言に近いと思われたが、意外な方向へ裏切られることとなった。
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