1325. 焼きタコ試食会
持ち帰った軟体生物タコは、日本人の知識で美味しく頂くことになった。イザヤの指示でアベルが塩もみして洗い、アンナが茹でてぶつ切りにする。赤く鮮やかな色に仕上がったタコは、その後……鉄板で焼いた。不安そうだった魔族も、リリスが頬張った後に恐る恐る口に運ぶ。食べてしまえば美味しかった。
「これが小説にあったタコ焼きね?」
「違いますわ」
即答でアンナに否定される。
「どちらかと言えば、焼きタコです」
どちらも同じじゃないかしら。そう思ったリリスだが、素直に頷く。大公女達はメモを取った。小説に繋がるミニ知識なのだろう。
「小説に出てくるタコ焼きと、何が違うんだ?」
帰ってきてタコの下処理をしている間、朗読する勢いで物語に出てきたタコ焼きの説明をされたルシファーは、興味津々で覗き込んだ。中身は白く外は赤くなったタコは、吸盤がなければ美味しそうだった。あの吸盤が、元の姿を思い出させる。
化け物さながらの外見がなければ、人族にも捕食されるかも知れない。海辺の浅い場所に生息していたので、この味なら食料として確保するのも簡単だった。
「タコ焼きは丸く穴があいた鉄板の上で、小麦粉などを溶いたふんわりした生地で包んで焼くのです。このように丸焼きにはしません」
ふむ……材料や道具を揃えれば作れるというので、それは今後のお楽しみとなった。ちなみに、リリスは呼んできたドワーフに道具の説明を始める。小説の文章から想像が出来なくて、シトリーがイメージを絵に描き出した。それをアンナやイザヤの指示で修正した結果、完璧なタコ焼き専用鉄板の図が出来る。
「これを作ればいいんですな? おう、皆! 姫様のご要望だ、急ぎで仕上げるぞ!」
ちょうど保育園の仕事が一段落したこともあり、ドワーフ達は大いに盛り上がった。その片手にワインが並々と注がれたコップがあったことは、ごく普通の光景だ。あっという間に飲み干されていくワイン樽を、収納から追加しながらルシファーがリリスを遠ざけた。
「絶対に口にしてはダメだ」
「葡萄のジュースも?」
「紛らわしいから禁止。他のジュースにしなさい」
過去のあれやこれやを思い出し、ルシファーは珍しくきっちり禁止を言い渡した。リリスも神妙に頷く。お酒を飲んだ翌朝は、なぜかルシファーが大変なことになっていた。きっと私が暴れるんだわ。申し訳ないから飲むのは諦めよう。
「リリス様、タコ焼きが作れるようになったら、私がタコを捕まえてきますね」
気合十分のルーサルカの発言に、ルーシアも参加を表明した。水の精霊族である彼女がいれば、海の水難事故も防げるだろう。念のため、魔王軍の誰かと一緒に出かけるよう指示が出た。
「ライ、これ……本当に食べるの?」
顔色の悪いアムドゥスキアスは、先ほど見たタコの姿が忘れられない。あのヌメヌメした恐ろしい生き物を食べて、婚約者のレライエが化け物になったらどうしよう。そんな不安が滲んでいた。
「食べるぞ」
「……わかった、僕も覚悟を決める。君がどんな食生活を好んでも、受け入れるから」
悲壮な覚悟を決めた翡翠竜の口に、レライエが焼いたタコを放り込む。ゆっくり咀嚼し、突然アムドゥスキアスがひっくり返って暴れ出した。
「竜族にタコは危険か?」
「僕は平気だったけど」
けろりと発言するルキフェルが翡翠竜の口の中を覗き、大声で笑い出した。笑い止むまで待つより、自ら確認した方が早い。ルシファーが原因究明に乗り出し、唸るアムドゥスキアスの猫パンチさながらの動きを避けた。
「歯に、刺さったのか」
短い手で口の中のタコを取ろうとするが、上手くいかずに転がって暴れる。婚約者のレライエが苦笑しながら抱き上げ、牙に突き刺さったタコを引き抜いた。
「死ぬかと……怖かった、ライ」
「無理して食べなくてもいい」
くすくす笑う婚約者の胸に顔を埋め、意外と幸せそうな翡翠竜だった。
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