227. 最後の部屋は植物園でした
最後は
開くと驚くべき光景だった。まず植物が異常な数並んでいる。一瞬、エルフが木の上に作る部屋を思い浮かべたが、あれより強烈だった。鉢植えの観葉植物は天井付近まであり、そもそも鉢の大きさが大人2人でも持てるかどうかの巨大サイズだ。
南国系の植物が中心なので、ヤシの木が中央に設置された周囲に他の植物が並べられていた。
「パパ、温室みたいだね」
「確かに植物が多い部屋だな」
入り口に立ち尽くしていると、気付いたシトリーと彼女の兄が顔を見せた。歳は離れているのに、顔立ちは双子のようにそっくりの兄妹だ。
腰まで届く髪は美しい銀で、小麦色の肌を縁取る。妹は銀色の瞳だが、兄は少し金色がかった色の目をしていた。歌が上手な一族で、風に関する魔法は生まれてすぐに使うと伝えられるほど得意だ。
「陛下、リリス様、足をお運びいただきありがとうございます」
優雅に一礼したシトリーに続き、兄も頭を下げる。子爵家の父親は現在サタナキア将軍とともに、魔の森の魔物討伐に出ており、今回は兄が付き添いだった。
艶のある壁紙は真っ白で、窓からの日差しを反射するためらしい。よく見ると奥の方にベッドや鏡台、ソファなども置かれていた。植物園の中で生活する状態に近い。
「見事な木々だが……持ち込みか?」
「はい、我々ジズはエルフと同じで森の住民ですので、木々があると落ち着くのです」
「パパ、あの木は実がついている!」
リリスが大喜びで指差す先には、確かにリリスが両手で抱える大きさの茶色い実が揺れていた。抱き上げても届きそうにない。
「リリス姫様、あの実は食べられるのですよ」
そう告げると、兄が宙に浮いて木の実を妹へ投げる。受け取ったシトリーが木の実へ、器用に小さな穴を開けた。
「ここから中のジュースを飲みます、最後に実を割って中身の白い部分を食べます」
説明しながらリリスに差し出してくれる。
「良かったな、リリス」
「もらっていいの? ありがとう、シトリー」
嬉しそうなリリスが受け取るが、大きすぎて落としそうだった。こっそり魔力で補助して実の重さを軽減する。ストローを差して中の汁を飲んだリリスが目を輝かせた。
「美味しいよ! シトリーも飲む?」
「私は他にも実を持っていますから、リリス様がお飲みください」
「パパは?」
「少しだけもらおうか」
リリスが差し出すストローを避けて、リリスの手に垂れた汁をぺろりと舐める。ストローから零れたジュースはほんのり甘かった。
「甘いな」
「うん」
手を舐められても気にしないリリスをよそに、兄妹は顔を赤くして俯いていた。
「陛下……ちょっとよろしいですか?」
廊下から顔を覗かせたアスタロトの表情で、どうやら見られたと気付く。人前で舐めるなと注意されるのだと悟ったルシファーは「今忙しい」と断った。しかし、この程度の抵抗で見逃してくれる側近ではない。
「緊急の案件です」
「パパ、アシュタが怖いよ?」
リリスの指摘に、余計に視線を合わせないようにしながら、ルシファーは逃げ道を探すが……仕事は片付けてしまったし、この後の予定は未定だった。諦めて視線を合わせると、赤い瞳が鋭く突き刺さる。愛しいリリスの赤い瞳を見ても可愛いだけなのに……。
口元を歪めて作った笑顔に、引きつった声で「わかった。部屋で聞く」と返すのが精一杯だった。
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