1154. 覗きは法に反しています

 何故だ。オレの持ち物だぞ?


「ルシファーはダメよ。女の子だけで集まるんだもの」


 使用許可を与えた小屋は合宿所として認められたが、ルシファーの参加が認められなかった。一応家主である。ついでに言うなら魔王なのだが。肩書きはリリスの前で役に立たなかった。


「すぐ近くだもの、ルシファーは仕事をしてて」


 親離れか? いや、それより嫌われたんじゃないか? 青ざめていくルシファーを、気の毒そうにベールが支えた。


「陛下、お諦めください。性別の変更は出来ませんから」


 しょんぼりと肩を落としたルシファーだが、いろいろ粘った結果、結界を張るのは許された。これでリリス達に何かあれば、すぐに察知できる。ぎりぎりの譲歩を終えたルシファーが、ふと気付いて指摘した。


「アムドゥスキアスもダメだろう。オスだぞ」


 しらばっくれて、レライエのバッグに入ったまま同行しようとした翡翠竜が「ちっ」と舌打ちする。思い出したと言わんばかりの態度で、レライエがバッグを外した。


「アドキスは待っててくれ」


「やだっ、僕子供だよ?」


 どうしても着いていくと駄々を捏ねるが、レライエにトドメを刺された。


「子供なら婚約者の座を返上しろ。それが嫌なら、私の部屋で待つ。どちらがいい?」


 答えはひとつだった。尻尾を垂らしてとぼとぼ歩きながら、ちらっと振り返るが同情は買えない。諦めた彼はレライエが与えられた私室へ帰っていった。


 アンナは妊婦で休暇中なので、今回の合宿というお泊まり会に参加しない。そのためメンバーはいつもの顔触れとなった。


 休暇で居なかったルーシア達も合流し、これから4人の大公女と護衛のイポスを連れたリリスが、移動を開始する。送っていくのも禁止されたため、ルシファーが魔法陣で転移させる方法を取った。安全のためと言い聞かせたが、実際は途中で騒動を起こしそうな予感がしたのだ。このメンバーなら何かしら引き当てそう……それはルキフェルやベールも同意見だった。


 転移で荷物ごと小屋の前に送り、ルシファーは無言で執務室に戻る。珍しいこともあるものだと首を傾げたベールだが、大量の書類を処理してもらうチャンスだった。追加の書類とお茶菓子を持って顔を出すと、ルシファーは真剣な顔で鏡を覗き込んでいる。


「陛下、何を……?」


「リリス達の確認だ」


 鏡同士を繋いで、小屋の内部を確認しているらしい。現在荷解き中のリリスは、用意されたベッドの上に荷物を広げていた。着替えなので当然だが、下着も混じっている。


「見るなよ、見たら目を抉る」


 魔王に脅される大公は、銀髪を揺らして首を横に振った。近くのベビーベッドには、小竜となったヴラゴが丸くなって昼寝中だ。それを横目で見ながら、呆れたと口にする。


「卵の年齢の少女に欲情する趣味はありません。そもそも、陛下……覗きは法に引っかかります」


「面倒だ。改正しておけ」


 自己都合で法改正を望む彼の姿に、溜め息をついたベールが鏡の上部を掴んで床に叩きつけた。厚い絨毯の上で辛うじて持ち堪えた鏡を、ベールが踏みつけて割る。


「あっ、何をする!?」


「覗きで勾留しますよ、陛下」


「……」


「護衛も側近もつけての外出ですよ。明後日には戻るのに、あなたは騒ぎが大きすぎます」


 これ以上我が侭を言うと後が怖い。引き際を図る魔王の前に、ベールは書類を積み上げた。


「これは夕食までに処理してください。ルキフェルとお伺いするまで、休憩は禁止です」


 はぁ……溜め息をついて書類に手を伸ばすルシファーに頷き、ベールは足早にルキフェルの研究室へ向かう。届けられた少女の手の痣を調べるルキフェルが心配だった。夢中になると周囲への警戒が疎かになるのだ。


 廊下を急ぐ大公の前を塞ぐ者はいない。通例であるそれを破る者がいた。

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