320. 独占欲で余計なことを言ってました
アスタロトとベールの必死の説得も
「新しいドレスを作ったから着てごらん」
デレデレと鼻の下を伸ばしたルシファーは、淡いピンクのドレスをリリスに手渡す。艶がある桜色の絹に、柔らかなオーガンジーを重ねてボリュームを出したドレスは、可憐な印象が強い。目を輝かせたリリスはお礼を言うと、すぐに試着に向かった。
いそいそ後を追いかけようとしたルシファーだが、侍女長のアデーレに邪魔されてソファに戻る。魔王の私室と続き部屋で作られた王妃の間は、気づけばリリスが当たり前のように使用していた。以前のアスタロトの思惑やリリスの予言が叶った状態だ。
「パパ、似合う?」
「すごく綺麗だ。可愛いよ、似合ってる。リリスはオレのお姫様だからね」
「ありがとう」
素直に賛辞を受け取ってくるりと回って見せる。背中側に大きなリボンがあり、動きに合わせて揺れる淡布が風に躍った。肩を出したドレスの胸元はビスチェタイプで、全体に薔薇の刺繍が細かく施されている。腰のあたりで一気に絞ったあと、ふわりと丸さを出したスカートが広がるデザインだ。
美しく成長したリリスの黒髪が映えるよう、薄い桜色を選んで正解だった。試着のため髪を下ろしているが、結ったらさぞ似合うだろう。
「陛下……っ、失礼いたしました」
つい普段のくせで返事を待たずに入ったベールが詫びる。リリスはにっこり笑って頷いた。
「こちらが出席者リストです。それから……舞踏会なのですが」
「まだ何かあるのか?」
あれこれ理屈をつけて中止を求める側近達の態度に、ルシファーは眉をひそめる。なぜか何度も反対してくるのだ。以前は嫌だと言っても開催して、義務だと無理やり出席させたくせに……そんな思いで睨むと、ベールが一番重要な理由を口にした。
「我々は構わぬのですが……リリス姫はまだ社交界デビューしておりません。このままでは舞踏会への参加は無理です」
「え?」
「はあ?」
リリスとルシファーの間抜けな声に、やはり理解していなかったとベールは溜め息を吐いた。
「陛下が決めたのですよ。15歳までデビューさせないと口にされました。誓約でしたので、撤回ができません。どうなさいますか?」
だから止めたでしょう。そう言わんばかりの突き放した口調に、ルシファーは記憶を辿った。7歳の時に貴族の子女を集めたお茶会があり、リリスが招待されたのだ。しかし自分が参加できない集まりにリリスを出すことを懸念したルシファーが断った。
心配と不安、独占欲で縛るような発言をしたのだ。それがベールの言う誓約であり、制約だった。曰く魔族の成人年齢である15歳までデビューさせない、と。我が侭を振りかざして宣言した記憶がよみがえる。
「なぜ、もっと早く言わない!」
「言ったでしょう! アスタロトが2度も説明しました」
聞いていなかった、かも知れない。やたら反対されたので聞き流しながら「舞踏会は絶対にやる!」と言い切った記憶しかない。冷や汗が背を伝った。
「私は出られないの?」
「えっと……出られるように、なんとかする!」
必死で過去の事例を思い浮かべる。何か抜け道の一つや二つあるはずだ。ないと困る! 絶対に昔、似たような事例があった。
唸りながら順番に記憶を攫っていると、分厚い本を片手にアスタロトが入室した。声をかけてもノックしても返事がないうえ、扉が開いたままの私室は不用心この上ない。
「陛下、魔王史7265巻をお持ちしました。こちらをご覧ください」
アスタロトが開いたページを覗き込むと、リリスが最初に気づいた。
「ロキが最初にパーティーに出た時の話よね!」
「さすがですね、リリス嬢。この時も陛下の余計な誓約が邪魔をしましたが、切り抜けています」
示された方法を指先で追いながら読んだルシファーは、ほっとした表情で息をついた。
「何とかなりそうだ」
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