1157. どうやって開けるんだよぉお!!
文句を言いながら外に出たルキフェルは、ベールにしがみつきながら中庭に出た。研究室へ向かうなら、中庭を抜けるのが一番早い。直後、ルキフェルはざわりと魔力を踊らせる。何が起きたのかと振り返ったベールは、慌てて飛び出した。
「どいてっ!」
「落ち着きなさい、まずは話を」
「人族風情が魔王城で何してるのさ。仕事しない門番も、この身の程知らずも……滅ぼしてやる」
水色の髪が魔力に煽られて揺れる。尻尾のような動きで、怒りを露わにしたルキフェルが牙を剥く。視線の先にはアベルがいた。びっくりしすぎて動きが止まった彼に、ベールは珍しく声を荒らげる。
「早く城内に入りなさい!!」
「はっ、はい!」
身の危険は本能的に感じ取ったようで、アベルは駆け足で城へ向かう。その背中に魔力を風に変えて叩きつけたルキフェルだが、ベールが間に入って散らす。背中で起きている出来事が理解できないまま、アベルは必死に走った。騒動を聞きつけたコボルトが、柱の影から応援する。彼ら自身は戦闘能力が低いこともあり、身を挺して守るのは無理があった。
「アベルさん、がんばれ」
仲のいいフルフルが、震える声をかける。頷きながら走るアベルが、建物の扉に手を伸ばした。ノブに触れる直前、背筋がぞわっとして指を引っ込める。じゅっと音がして、ノブが溶け落ちた。
高温のブレスを叩きつけたルキフェルは、ドラゴン姿に戻っていた。広い中庭は、大きな種族が離着陸できるように作られている。そのため動きを制限しないのだ。魔力が自由に使える場所であることも手伝い、ベールは苦戦していた。
傷つける気になれば、簡単だが……ルキフェルを傷つけたくない。しかし魔族と認定された日本人も守らなくてはならなかった。
「なんで邪魔するのさ」
唸るルキフェルへ、必死に説得を試みるベール。
「話を聞いてください。彼は人族ではなく、日本人という魔族として認められています」
「嘘だっ! 人族じゃないか」
「人族だったんですが、異世界から」
「じゃあ勇者だろ、殺すべきだ」
「勇者と対峙するのは陛下の役目です。勝手に手を出すべきではありません」
話の論点が多少ズレてきているが、言い争う大公2人。珍しくベールが声を張るので、デュラハンやドワーフも集まってきた。注目を集める場で、アベルが半泣きで扉に体当たりする。
「何もしてないぞ、っていうか……どうやって開けるんだよぉお!!」
扉のノブが溶けた扉は手強かった。見かねたコボルト達が外に飛び出し、一緒に扉を押し始める。
「何を騒いでいるかと思えば、またアベルですか」
侍女長のアデーレを伴い顔を見せたアスタロトが、苦笑いして扉を開ける。軽く押したように見えたが、溶けて固まった錠を捻じ切ったらしい。中に飛び込んで、ぺたりと腰を落としたアベルはずずっと鼻を啜る。
「怖かった……あ、ありがとうございます」
こんな場面でも礼を優先するのは、日本人らしい。コボルトのフルフルが、アベルの膝によじ登った。ハンカチでアベルの顔を拭いている。
「フルフルも、ありがと」
無事を確かめ合う2人の前に立ち、アスタロトは首を傾けた。状況が理解できないが、何かトラブルが起きたことは間違いない。ルキフェルが暴走したのでしょうか。それなら、久しぶりに魔力を大量消費するチャンスですね。
呪いのせいで溜め込んだ魔力は、定期的に入れ替えが必要だ。その発散を手伝ってもらえるとあれば、このチャンスを見逃す手はなかった。
「アデーレ、行ってきます」
「はい、お気をつけて」
機嫌よく出ていく夫を見送り、アデーレは振り返って扉の状況を確認する。捻じ切った錠や溶けたノブは交換が必要だが、扉自体はまだ使えそうだった。見物しているドワーフを手招きし、扉の修理を依頼する。
「直しておいてくださいな。……修理費はルキフェル大公閣下に請求しましょう」
城の管理も担当する有能な侍女長は、侍従であるベリアル達に指示を出した。アベルを城内の安全な部屋に移動させなくてはならない。それから陛下にご挨拶して……リリス様は外出なさったと聞いたわね。忙しくなりそう。戻るなり仕事を見つけたアデーレは、いそいそとルシファーの執務室へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます