174. 主役にやられる役!
保育園を数日閉鎖したものの、何とか卒園式の一週間前には解除することが出来た。ちなみにリリスも鼻水と咳の症状が出たが、治癒魔法陣3種類乱用したルシファーのおかげで、翌朝には完治している。お友達としっかり練習したリリスは、ご機嫌だった。
お迎えにきたルシファーと護衛のヤンに手を振り、元気に走ってくる。
「リリス、手を繋ごうか?」
「……いいよ。でもパパが繋ぎたいって言ったんだから。リリスは大人だから、繋がなくていいんだもん」
自分より年少の子が先生達に手を繋ぐことを言い聞かされる場面を見てから、大人は手を繋がないで歩いてもよく、子供は手を繋いで歩くものと認識していた。でも友人のママは「しかたないわね」と手を繋いでいたので、同じように真似する。
大人のフリが大好きなお年頃は、なんでも背伸びしたがるものだ。
「パパが不安だから、大人のリリスに手を繋いで欲しいんだ」
「それならしかたないわね」
このやり取りはほぼ毎日繰り返されるため、ガミジン先生にも微笑ましく見守られている。頭の上で騒ぐピヨの相手に忙しいヤンは、主君の甘やかしっぷりを反面教師にした。つまり、ピヨを甘やかし過ぎると苦労するのは数年後の自分だと気付いたのだ。
今日も愛娘に手を繋いでもらえたルシファーは機嫌がよく、自分の主張が認められたと考えるリリスも笑顔だった。
「明日は卒園式ですので、少し登園時間が変わります。間違えないでくださいね」
担任であるガミジン先生の言葉に、リリスは大きく頷いた。
「わかった」
「気をつけるとしよう」
魔王城への緩やかな坂を並んで歩きながら、リリスが興奮気味に話をする。今日は誰と遊んで、どんなことがあって、おやつが何だったか。報告するようにすべて話してくれるリリスの姿は愛らしく、興奮して赤く染まった頬も可愛い。
「だから明日は、リリスが頑張るの!」
劇の内容は相変わらず秘密らしいが、頑張って練習した話は何度も聞いていた。だから微笑んで肯定すればいい。
「明日が楽しみだ、リリスは主役なのか?」
「うーんとね、主役にやられる役!」
「は?」
それって敵役って言うんだよな? なぜこんなに愛らしいリリスが悪役なんだ?! 混乱して足を止めたルシファーの視線を受けて、ヤンは口を開いた。
「最初は主役に抜擢されたのですが、姫の希望で役を交代したとか。口止めされたので、劇の説明はご容赦ください」
おおまかな事情だけ説明して口を噤んだヤンだが、頭の上から滑ってきたピヨを口の中に放り込んでしまい「ぺっ」と勢いよく吐き出した。間違えて齧ったら、『ヤン危篤のお知らせ』になるところだった。鳳凰の毒はフェンリルに有効なのだ。
「最後にリリスが負けちゃうのか?」
「そう! 主役はね……実はパ……、ううん、ダメなの。明日見るまで内緒」
吐き出された行為が楽しかったのか、小さな翼をばたつかせたピヨが再びヤンの口に飛び込む。すぐ吐き出されたピヨは、チャレンジを続けようとした。しかしヤンが牙でブロック。諦めたピヨは足元を歩き出した。踏まないよう気をつけるヤンの姿は微笑ましい。
意外と仲がいいようで安心したルシファーは、手を繋いだリリスを促して歩き出す。
「楽しみだけど、リリスが負けそうになったらオレはいつでも助けるからな」
勢い込んで告げると、リリスが嬉しそうに笑いながら繋いだ手を大きく振った。
「ダメなんだからね! リリスがパパを守るんだから!」
前に逆凪で魔力が使えなくなった際のアスタロトとの約束を、彼女は大事に守っているらしい。嬉しそうで楽しそうな態度や表情と、大人びてちぐはぐな言葉が胸に沁みた。
「今日も一緒にお風呂入ろうか」
「パパが入りたいなら、付き合ってあげてもいいけど……赤薔薇じゃないとヤダ」
庭園の大輪の薔薇は時期が違い、小さな野薔薇しか咲いていないだろう。しかしリリスのお願いである。ベルゼビュートが管理している温室から、いくつか薔薇の花を拝借すればいいか。抗議を受けても、「リリス用だ」と言えば彼女は許してくれた。
「赤薔薇を用意するので、一緒にお風呂してください。お姫様」
抱っこしながら囁くと、リリスは笑いながら首に抱き着いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます