501. この場で最も役に立たない魔王
慣れた様子で唐揚げが作られていく。美味しそうな香りに釣られたのか、魔熊や魔狼も集まってきた。捕まえたコカトリスを全部加工した方がいいかもしれない。城門前への転送前で良かったと考えながら、アムドゥスキアスが捌いたコカトリス肉の唐揚げを見つめる。
「陛下、手が空いていたら唐揚げを皿に並べてくださいませ」
「冷めないよう魔法陣をつけられますか?」
調理に忙しい少女達に声を掛けられ、ルシファーは「手伝おう」と調理台の前に立った。しかし調理経験がない魔王に出来る仕事などない。熱い油の中に手を突っ込んでも平気だが、他の人も食べる唐揚げを素手で摘まむのは視覚的に問題がある。
結局手伝える範囲が、皿に唐揚げを分配する作業と魔法陣での保温程度だった。ちょっと情けない。唐揚げをトングで皿に並べ、イフリートが送ってきたサラダを添えてみる。意外と楽しくなり、リリスと一緒になって彩りを考えながら盛りつけ始めた。
「リリスはこっちがいいと思う」
「だったら、トマトはここでいいか」
最後に柚子のドレッシングをかけながら、トマトや檸檬を飾ってバランスを確認する。
「残ったコカトリスは城門へ送りますか?」
尋ねられて顔を上げると、コカトリスはすべて鱗が
森の中には魔熊や魔狼を含めた数種類の魔族が集まっており、折角だから全部唐揚げにして配布しようと提案した。材料の残りを確認し、ルーサルカが頷く。
「構いませんわ。材料は足ります」
「もう一度、油の温度を上げよう」
レライエが火を操って、かまどの火を強くする。肉を唐揚げ用のタネにくぐらせるシトリーが、風の魔法を上手に使い肉を投下した。揚がった肉をルーシアが取り皿に並べる。
手際のよい少女達は4人そろって実力を発揮するタイプらしい。肉処理が終わったヤンとアムドゥスキアスを浄化してやり、ハーブを持ち帰った後は何もしないベルゼビュートを探した。手伝わせようと思ったのだが、いつの間にやら魔獣達を整列させている。
「唐揚げは一人1皿までよ」
唸りながら了承を伝える魔獣は行儀よく並び始めた。しかし順番が気に入らないのか、後ろでケンカが始まる。秋の食糧事情は豊かだが、やはり生存競争激しい森の掟は『早い者勝ち』なのだ。少しでも前に並ぼうとケンカする魔熊と魔角兎を一番後ろに吹き飛ばした。
「ケンカしたら並び直し」
喧嘩両成敗で2匹とも吹き飛ばしたため、分かりやすい見せしめになった。その後は大きなトラブルもなく、大人しく2列に並んでいく。
このメンバー、意外とバランスがいいな。感心しながら、ある意味この場で最も役に立たない魔王という称号を得ながら、ルシファーは黙々と唐揚げを皿に並べ続けた。
「「「「「いただきます」」」」」
仲良く手を合わせて食事を始めた。森の澄んだ空気が美味しい環境は、食事を美味しくしてくれる。魔獣達もきちんと頭を下げて礼を示してから口をつけた。
「ところで……本当に悪かったな、アムドゥスキアス」
「あむどちゅきにゃす?」
「リリスはちゃんと謝りなさい」
先ほどくしゃみで途切れた謝罪を指摘すると、リリスは頬張った唐揚げを飲み込んでから頭を下げた。
「ごめんなさい」
「あ、いいえ……陛下のお子様、ですか?」
翡翠ドラゴンの疑問に、全員が「そういえば娘という肩書もあった(わね)」と顔を見合わせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます