1256. 散歩に出れば、また新種?
申請書類を作った翌日、リリスが蜥蜴もどきを拾ってきた。といっても、手のひらに乗るサイズではない。ルーサルカとシトリーを伴って、魔王城の裏庭に散歩に出たのだが……途中で出会ったという。見たことのない蜥蜴だ。背中に大きなツノがいくつも並び、翼の類がなかった。ドラゴンではなさそうだ。
整理していた書類を放り出して駆けつけたルシファーは、じっくり観察してから唸った。
「見たことがないな」
巨大蜥蜴は、大きさは牛程度だろうか。これが幼体なのか、成体なのかも分からない上、長い赤い舌をちらちらと出し入れしながら近づいた。害意はなさそうだ。撫でるとひんやり冷たく、爬虫類の特徴の変温動物である可能性が高い。
「新種か? ルキフェル、手が空いたら来てくれ」
召喚の魔力を込めて声に出すと、すぐに現れた。忙しくて手が離せなければ拒否も可能だ。魔王城内の防御魔法陣を弄ったので、こういった転移のような魔法も屋外なら使用可能だった。
「なに? 蜥蜴……竜じゃないよね」
「ああ、違うと思うぞ。初めて見たが、どうだ?」
ルシファーが前を譲ると近づいて、蜥蜴を撫でたり摩ったり、口の中まで覗いている。最後に尻尾を持ち上げて確認し、頷いた。
「うん、新種っぽい。僕も知らないや。これ1匹なの?」
「それがリリスの話では、あちらにうじゃうじゃいるそうだ」
指差した先では、ヤンが唸りながら威嚇中だった。大量に押し寄せる蜥蜴を裏庭から続く通路に押し留めようと奮闘している。
「ヤン、通していいぞ」
「何ですと!? 我が君、それは危険です!!」
「オレが危険なら、お前はもっと危険だろう。戻ってこい」
手招きされて不満そうだが、大急ぎで駆け戻るあたりが忠犬である。本人は狼で犬ではないと反論するだろうが。
ヤンがいなくなると蜥蜴はいそいそ歩いて近づき、仲間と一緒に並んで日向ぼっこを始めた。やはり変温動物か。ルシファーは彼らの行動を確認しながら苦笑いする。裏庭は木々が生い茂っているため、魔王城の日が当たる庭に出たかったのだろう。
「意思の疎通は?」
「虹蛇にでも頼もうと思っていた。爬虫類系なら、彼らの領分だろう」
「なるほど。ベールに連れてきてもらおう」
簡単そうに魔王軍の総指揮官を足に使う。ルキフェルは少し離れた場所で、虹蛇の出張要請を行った。リリスはしゃがんで蜥蜴を撫でたり、その間に挟まって寝転がったりと楽しんでいる。
牙もさほど鋭くなく、大人しそうな種族だった。魔物か魔族か、はっきりするまで放置で問題なさそうだ。こちらの庭の手入れに入るのはエルフくらいだから、念のために連絡は回しておこう。シトリーが連絡役に名乗りをあげたので、任せた。大公女達も徐々に逞しく頼もしくなってきた。
「リリス、ルカが困ってるぞ」
後ろで尻尾を抱っこして困り顔のルーサルカの存在を示すと、きょとんとした顔で上半身を起こす。編んだ髪が少しほつれたのを指先で耳に掛けて、狐尻尾の少女に問いかけた。
「どうしたの?」
「リリス様、蜥蜴もですが……その、ポケットに入れた子も申告した方が」
「あ、忘れてたわ」
ごそごそとエプロンドレスのポケットから取り出したのは、リスだった。淡い空色で水色より濃く見える。
「目が3つ?」
「違うの、宝石なのよ。ほら、誰がこんな酷い悪戯したのかしら」
額に無理やり宝石が埋められていると文句を言うリリスが撫でると、リスは喉を鳴らしながら嬉しそうに擦り寄った。それを見ながらルシファーが額を押さえる。
「気のせいか? 新種ばかり見掛けると……昔に戻ったような気がする」
出会う生き物がすべて目新しかった頃のようだ。ここ数万年味わったことのない感覚に、ルシファーはそれさえ楽しむように口角を持ち上げた。
「意思の疎通が出来る者を探して、魔族の新種登録会だ!」
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