1255. 新種族スライム登録
スライム――ゲームで見かけたあの魔物が、まさか現実で見られるとは! 大喜びで駆け寄ったアベルがひとつを手に乗せ、透き通ったボディを覗いた。嬉しそうに別の個体を拾い上げる。どうやら敵ではないと判断されたらしく、スライムまみれになった。
「スライムというのか」
「正式名称があったとは」
「……これ、日本から来たの?」
ルシファーは名前が分かったと喜び、複雑そうな顔のアスタロトの肩を叩いた。その横で、ぷるぷるを突くルキフェルが首を傾げる。
「あ、日本の生物じゃないっす」
「「え?」」
じゃあ、なんで名称を知ってたの。そこから追及されると、まず世界観の違いから始まる。この世界は娯楽が少なく、小説も最近普及したし、絵本も少なかった。漫画もなければアニメもない。ゲームと呼べるシステムもなく、唯一チェスに似た遊びがそれに該当する程度だ。
日本とは娯楽の幅が違い過ぎた。その分魔法があったり、ゲームや空想の生物が暮らしているので、日本人から見れば現実離れした世界だ。だから、この生物を見て「スライムだ」と目を輝かせるのはアベルにとって当然で、それ以外の名称があっても覚える気はなかった。
「日本にはいないんですが、日本に概念はあるんです」
実在しない生物を想像で作り上げ、勝手に属性や習性まで作り上げる……外から聞くと危険極まりない変人でしかない。だがアベルは日本で知ったゲームの魔物知識を披露し始めた。目を輝かせるルキフェルが、知っている魔物は名前を当てはめていく。
「へぇ……確かにいくつか該当するね」
オークやドワーフ、エルフのゲーム知識はほぼそのままだ。多少の違いは、異世界ゆえの誤差としてアベルは飲み込んでいた。最弱生物スライムを発見したことで、彼のテンションは異常に高い。
「すごいっす、アンナやイザヤにも見せたいので1匹ください」
「いや、相手は魔族分類だぞ。当事者の意見を聞いて交渉してくれ。それとスライム側の意思を確認する方法を知らないか?」
「……テイムするとか?」
「「「テイム」」」
聞いたことがない単語を繰り返す上層部一行。アベルはまた説明を始めた。さきほど口にしたゲームの概念で、契約して使役するのだと話したら……すっと部屋の気温が下がった。
「使役だと?」
「魔族を使役する人族の話は不愉快ですね」
ルシファーとアスタロトの機嫌が急降下するのに合わせ、室温も下がっていく。怯えた様子でスライムがひとつに纏まり、小刻みに震えながら暖をとり始めた。
「落ち着いて、スライムが怯えてる」
「すまない」
「申し訳ございません」
ルキフェルの注意に慌てる2人がスライムに謝罪した。アベルにしたら「最弱生物スライムに謝罪する最強の魔王」という、とんでもない図式に興奮がさらに高まり……鼻血を噴いて蹲った。
「……スライムの攻撃か?」
「血を吸うなら吸血種族に分類ですね」
ぽたりと垂れた鼻血を、くるんと包んだスライムがじゅわっと消化する。その様は血を取り込んでいるように見えた。
「ぢがい゛ま゛ず……」
慌てたアベルが吸血ではないと、身振り手振りで伝える。苦笑いしたルシファーが渡したハンカチで押さえながら、何でも体内の栄養素に変えるのでゴミでも金属でも食べる旨を伝えた。その辺はルキフェル達が調べた結果と一致する。
「よし、これだけ個体がいれば問題ないだろう。魔族登録を行うので、ルキフェルは大至急、申請書類を作ってくれ」
魔王の鶴の一声。この世界の魔族に、スライムが新たに登録されることとなった。
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