841. ストーカー気質でした

 王冠を乗せて、じゃらじゃらと大量の飾り物を首やら耳に飾っていく。落とさないよう固定魔法陣を最後にかければ終わりだが、女性に比べて短い時間のはずなのに疲れた。この作業を短縮する方法を考えた方がいいかもしれない。


「ルシファー様。こちらが頼まれていたお品になります」


 受け取ったビロードの宝石箱の中を確認し、出来栄えに満足して頷く。大量に髪に飾られた王冠が落ちそうだが、魔法陣のおかげで固定されていた。


「助かった。スプリガンには礼をはずんでくれ」


「承知しております」


 出来る臣下バージョンのアスタロトが頷いたところに、ベルゼビュートが到着する。左半分の髪を垂らし、右側は編みこんで大量の薔薇を飾っていた。ピンクの巻き毛を揺らす彼女は多少露出を押さえたドレスを纏い、品よく全体を纏める。金のジュエリーは薔薇の形に統一され、宝石は蕾部分に少し使う程度で控えめだった。


「陛下、こちらをお使いくださいませ」


 用意させた百合の花は、金銀のリボンで結ばれている。淡いピンクの小花をあしらったため、可愛らしくできたブーケだった。


「ありがとう」


 リリスに持たせる予定なので、今回は衣装やティアラに合わせて百合にしたのだ。受け取って待つが、なかなか隣室のドアが開かない。続き扉の前でうろうろ歩いていると、苦笑いしたアスタロトに釘を刺された。


「女性の支度は時間がかかるものです。お茶でも飲んで余裕を見せないと……狭量な男は振られますよ」


「18人も奥さん娶ったアスタロトが言うんだから、こっち来てお茶にしましょうよ」


 相変わらず余計な発言が多いベルゼビュートだが、悪気はない。ハーブティーを用意する彼女に合わせ、ルキフェルが収納から焼き菓子を取り出した。


「ルシファー、これはリリスが焼いた……」


「18日前に焼いた菓子か!?」


 全部記憶してるのですか? 眉をひそめて「なんか怖いですね」と呟くアスタロトに、ベールが同意した。しかしそのベールも、ルキフェルの作った魔法陣に関する記憶では似たような異常性を発揮する。腰掛けたアスタロトは深紅より黒に近いローブに、金髪に合わせた金の装飾品を飾っていた。


 男性の方が手や肩にかける装飾品の数が多い。女性は細い首を際立たせる首飾りや髪飾りは派手にするが、肩や手はあまり着けないのだ。指輪も女性より男性に多いのが魔族の特徴だった。


 紺のローブ姿で向かいに座るベールは銀髪をゆったりと纏めて結い、青い髪飾りで留めている。透き通った素材を使った髪飾りは地味に思えるが、瑠璃竜王の鱗を使った特注品だった。耳飾りは青と緑の2種類の鱗が使われている。以前アムドゥスキアスと物々交換した鱗だった。


 同じ耳飾りをつけるルキフェルは、ベールの隣で焼き菓子を皿の上に並べた。すらりとした青年らしい身体を包むチャイナ服は銀の刺繍が入る青だ。ローブ代わりに羽織った上着がひらりと風に舞う。軽い素材で透き通るように織られた羽織りは、ベールの贈り物だ。さりげなく高価な品を付けた側近たちを見つめ、ルシファーはぼそっと呟く。


「……お前たち、仲がいいな」


 誰も答えない状況を気にしないルシファーは、焼き菓子につられてソファに落ち着く。差し出されたお茶に口をつけ、リリスが焼いた菓子を摘まんだ。記憶にある菓子より形が崩れている。焼きあがった鉄板の上から、形の良い物を選んで渡してくれる愛し子の気遣いだ。


 もちろん大公や側近へも形の良い物を渡すのだが、崩れたり割れた物を集めてヤンの口に放り込んで証拠隠滅する可愛い一面もある。そして割れていないが形の悪い物を、リリスは自分用に保存していた。今回の焼き菓子はその一部だと思われる。


「ルキフェル」


「なに?」


「この菓子をどうやってリリスから貰った?」


 真剣に問うルシファーの手元に、焼き菓子が積まれている。独り占めする気満々の魔王に、大公達はそろって頭を抱えた。この場面で、これから魔王妃のお披露目をするってのに――気にするの、そこですか? 

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