878. 朝から罰の言い渡し

 処罰は想像通り厳しいものが選ばれた。まず、ピヨに1ヶ月のヤンへの接触禁止を申し渡す。これは姿を見ることも含まれるため、彼女は一時的に鳳凰の群れに隔離されることとなった。同時にアラエルにも番との接触禁止が言い渡される。期間は同じ1ヶ月だが、アラエルは城門番の仕事があるので魔王城へ帰された。


 ピヨは知らない鳳凰ばかりの群れに放り込まれることとなり、アラエルとヤンは彼女を気遣いながら仕事に勤しむ。どちらも精神的に厳しい罰だったのは、幸いにも相手のドラゴンが軽傷だったこと。アラエルに関しては厳罰を求める声もあったが、魔王を狙った攻撃ではなく反省していることから減刑された。


 仕事を放棄したベルゼビュートは、これから10年間の無料奉仕が言い渡される。魔王城を中心として魔物狩りを行う軍の仕事を手伝う彼女だが、その際の報酬を10年間返上する形だった。一見すると地味な罰だが、趣味の賭けに使える個人的な資産が減るのだ。本人はがっくりと項垂れて了承した。


 大嫌いな書類の処理も多少回されるらしく、ベルゼビュートはピンクの巻き毛をくしゃくしゃに乱しながら「陰険なんだから!!」と叫んで、ベールにさらに説教を食らった。


 イポスは自ら反省して処分を受けると申し出たが、外敵から魔王妃を守るという最低限の仕事を果たしたので、大公達も悩む。最終的にアラエルを取り押さえた功績と差し引きし、数か月の減俸を言い渡すことで決着した。


 大公女達もリリスの暴走を止める役目があったので、何らかの罰が必要である。しかしここで翡翠竜が泣きながら懇願を始めた。ぺりっと背中の鱗を剥いで差し出し「申し訳ございません」と涙を流す。ほとほと泣く姿が哀れだがベールがきっぱりと言い渡した。


「彼女達の罰をその鱗で許すことは出来ません」


「……わかりました」


 しょんぼりしたアムドゥスキアスの言葉にほっとした途端、彼は無造作に尻までの大きな鱗をぶちぶちと引き抜く。


「アドキス! 何をしている!」


 小さなドラゴンの手を掴んだレライエが叱ると、きょとんとした顔で見上げる。痛みに涙がこぼれているくせに、アムドゥスキアスは抜いた鱗を両手でかき集めた。


「これで足りますか?」


 どうやらベールの拒絶を「鱗の数が足りないから無理」と受け取ったらしい。溜め息をついたベールはひとまず鱗を受け取り、後で対応を考えることに決めた。ルキフェルも鱗を剥ぐ痛みを知るだけに、顔を顰めて呻く。


「あの痛みは想像を絶するぅ……絶っ対無理!」


 トラウマになると目を覆うルキフェルに見えないよう、ベールは鱗を箱にしまった。振り返ると部屋の隅が真っ暗に染まっている。


「アスタロトも、そこで闇を広げては迷惑です」


 八つ当たり気味にぴしゃりと叱られ、おどろおどろしい闇を足元に垂れ流した吸血鬼王が肩を落とす。渋々闇を回収したが、やはり鬱陶しい表情で暗さを演出しながら部屋の隅に立っていた。ほぼ幽霊なのだが、この例えは日本人同士しか通じない。


「アスタロト大公閣下がめちゃくちゃ暗いぞ」


「娘と浮かれてる間に起きた事件ですもの。本人は現場にいたのに、大事な主君がケガをしたのよ? それは落ち込むわよ」


 アベルの呟きに、アンナは容赦なく事実を突きつけた。ぐさぐさと言葉が矢のように突き刺さるが、アスタロトは反論しない。その姿がまた普段との落差が激しすぎて、周囲の困惑を招いた。


「ルーシア、ルーサルカ、レライエの3人は減給とします」


 謹慎も堪えるだろうが、今の状況で彼女らがリリスの側にいないのも問題だ。このまま披露と視察は続けられるため、花を添える意味でも、大公女達を魔族内で認めさせる意味でも必要だった。


「アスタロト……あなたはお咎めなしとします」


 ベールの宣言に、その場にいた当事者達は顔を顰めた。

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