203. 緊急会議に溢れる危険な単語
以前の魔王城の謁見の間を数倍にした大広間で、大公達が待っていた。広すぎて怖いくらいだが、よく柱なしで崩れないものだ。ドワーフ達の建築技術に関心しながら、ドーム状の天井を眺めた。仮設えのときは狭かったが、今なら子爵男爵まで招集しても入れそうだな。
しかし現実逃避が許される時間は長くない。
「魔王陛下、足をお運びいただき感謝申し上げます」
にっこりと笑うベールが、凄く怖い。銀の髪を珍しく結っているのは、公式の場であることを強調する意味があるのだろう。青い瞳はぜんぜん笑っていなかった。そして敬称をきっちり口にした以上、何らかの説教が待っている。
「ああ」
短く答えて玉座に腰掛ける。当然、抱っこしてきたリリスは膝の上にお座りさせた。ここが彼女の定位置なのだ。将来的には隣にリリス用の椅子が設けられるだろうが、今はまだ玉座ひとつだけ。短い足をぶらぶらさせるリリスは、ルキフェルに手を振った。
子供同士なので嫉妬の対象にしないが、ちょっとムッとする。
「春から準備を進めておりました『リリス姫のご学友候補』を集めた、お泊り会の予定をご報告させていただきます」
淡々とした口調で、ベールは詳細を並べ始めた。
集めた子供達は女児のみで、基本的には各種族から1人以上参加させた。偏らないよう、貴族の子だけでなく平民からも募集したこと。お泊り会は3日間の予定で、魔王城の居住スペースで5回行われること。
「ん? 3日間を5回?!」
「はい、半月かかります」
予想外に候補が多いらしい。各種族から1人以上集めたのなら、仕方ないだろう。問題は……リリスのご機嫌である。我が侭が許されてきた彼女は、基本的に我慢が苦手だった。側近候補達はリリスと同じか少し年上程度。幼児なら当然だが、全員が我慢とは程遠い年齢層だ。
派手なケンカをするかも知れない。
「1回の顔合わせで10人に絞りました。50人と一度に顔を合わせても、一度も話をせずに終わる子が出ますから」
アスタロトの追加情報に「なるほど」と納得した。確かに50人も一度に紹介されたところで、リリスはまったく覚えないだろう。保育園で仲の良かった子が参加していれば、その子としか遊ばない可能性もある。
きちんと考えられたシステムに、ルシファーは頷いた。
「さて……陛下におかれましては、人族から救った子供を保護したとお伺いしました」
…………ぎくっ!
ついに始まった本題の追求に、顔を引きつらせるルシファー。背中の2枚の羽もしょぼんと床についている。何を言われるか不安な彼に、ベールは笑みを向けた。
「構いませんよ、いまさら。あなた様があちこちで拾い物をなさるのは、
なぜ二度繰り返す? その笑顔こそが怖いのだ。ベールは言い聞かせるように続けた。
「狐獣人系の女の子だそうですが。まさかリリス姫が正王妃で、今回の拾い子を側室になさるおつもりではありませんよね? いくら『
そこで意味深に言葉を切ったベールの声が低くなり、表情から笑みが消える。
「
ナニをぉ!? 絶叫しそうになったルシファーは、膝の上のリリスを強く抱き締める。振り返ったリリスが何とか抜いた腕で、近くにあるルシファーの頭を撫でた。
「パパ、怖くないよ」
「……怖い」
切られるのも怖いし、目の前の側近も怖い。
「そ、側室なんて考えてないぞ」
必死で言い訳を考えるが、素直に否定だけした方が被害が少ないと言葉を搾り出す。背を預けていたリリスは膝の上で向きを変えて、震えるルシファーを正面から抱き締めていた。最愛の娘の黒髪を撫でて気持ちを落ち着かせる。
「引き取り手となる親がいないから、アデーレに預けた。今後の身の振り方はリリスの決断次第だ」
そうだ、リリスが決断したんだった。最高の大義名分を手にし、ほっと胸を撫で下ろしたルシファーは気付いていない。まだベールの追求しか受けていない現実を。
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