122. 人族は呪詛がお得意?
「陛下、起きてください!!」
「どうした?」
「ご報告申し上げます。大量のゾンビが城門へ押し寄せておりますが、奴らに炎系の浄化が効きません。現在、浄化の魔法陣を操れる魔族が不足しており……」
「……ったく、そんな状況ならもっと早く起こしに来い」
要は手が足りなくなったらしい。ゾンビごときに魔王の手を煩わせるのは屈辱だろう。気持ちは理解するが、城下町のダークプレイスにゾンビが襲い掛かれば大惨事だ。あの街の住人は強いから返り討ちにするだろうが、街中が悪臭の巣になる。ゾンビ退治の厄介なところは
不衛生な死体が歩き回り、病原菌やウィルスをばら撒く。ゾンビ自身の戦闘力は低いため簡単に討伐できるが、街中に広がる悪臭と病原菌は危険だった。ある意味、バイオテロだ。早く対処しないと城下町がゾンビ街になってしまう。
リリスを残して起き上がろうとして、髪を掴んだリリスが目を開いていることに気付いた。少し迷うが、この場にアスタロトと一緒に残した方がいい。
「リリス、一緒に行く?」
「うん」
「えええええ!!」
そこは、いつもの「いや」が出るんじゃないのか? リリスが嫌を言うことを想定して一緒に行くかと聞いたのに、直球で同意が返ってきた。予想外の返しに次の言葉が出ず、銀の目を見開く。真っ赤な目が見つめ返し、ぱちりと瞬きした。
「パパと行く」
繰り返されてしまい、大きなため息を吐いた。ベッドの上に座りなおしたリリスが、抱っこを要求して手を伸ばす。反射的に抱き上げて、仕方ないと覚悟を決めた。
「わかった。アスタロト、案内しろ」
立ち上がりながら、ばさりとローブを羽織る。リリスにも小さな上着を渡して着せると、いつも通りに抱き上げた。首に手を回したリリスは欠伸をして、ぎゅっとローブに顔を埋める。
「はい。お手を
「オレの城だ。オレが守るのは当然だろ……被害は?」
「城門を閉ざしたため、現時点での被害はほぼゼロです。ヤン殿とベールが風の刃で応戦しておりますが、なにぶん数が多すぎまして、
「呪詛か……人族がらみだな」
ルシファーは重い息を吐く。人族がらみと断定したのは、呪詛を扱う種族が人族に限られるという現実があった。魔族は楽観的で、自分に正直な種族ばかりだ。他者を呪うなど滅多になく、呪詛と呼ばれるほど暗い闇の感情を持つことはなかった。
1000年ほど前の勇者が、最初に呪詛を持ち込んだ。魔王に負けたその場で、呪いの言葉を吐いて大地を
当時、呪詛を受けた土地の分析を行ったのがアスタロトだった。魔族の中で一番詳しい彼が言うなら、確かに呪詛を受けたゾンビなのだろう。
「オレが浄化の魔法陣を作る。発動は誰が?」
「はい、ベールとルキフェルが控えております。ベルゼビュートには
浄化の魔法陣をアスタロトに預けても、発動できない。これは魔力量の問題ではなく、魔力の質や種族の特性によるものだ。役に立てないのが悔しいのだろう。彼の表情は暗かった。
ぽんと拳をアスタロトの肩に当てる。
「この
「……確かにそうですね」
苦笑いした側近に肩を竦め、ルシファーは純白の髪と黒衣を揺らして城門の上に立った。魔力の流れはかなり戻っている。それでも完治には遠く、まだ戦いに使うには不安があった。
「陛下、ご足労を……」
「挨拶はいい。それより魔力を同調させろ」
ベールの声を遮り、手元に緻密な魔法陣を描く。魔力を調整して流し込むルキフェルが、淡く輝く魔法陣を受け取った。ぱちんと指を鳴らす合図で転送された魔法陣が、白い光となり大地に刻まれる。次の瞬間、魔法陣に包囲されたゾンビが跡形もなく消滅した。
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