1270. 海で拾った猫だから
雰囲気はケットシーに似ているが、単独という点が気になった。これだと種族として認定されない。いっそケットシーの亜種ということで、混ぜてしまおうか。
リリスの靴でいつも世話になっているケットシーを思い出し、外見的特徴を比べていく。二本足で歩くケットシーに対し、この子は四本足だ。現時点で立ち上がったのは、魚をもらうときだけだった。それにケットシーは普通に話せるが、この子は魔獣と同じ言語を使用している。
難しいか。混ぜる作戦は使えなさそうなので、新種だが単独ということで魔族認定にとどめるしかないだろう。種族として認められれば、領地が与えられるので狩りをする餌場が出来る。他の方法で餌場を確保してやろう。
余っている直轄地を思い浮かべながら、ルシファーは猫もどきの前に屈み込んだ。後ろから飛びついたリリスが、純白の髪を掴んで首を傾げる。
「名前は何がいいかしら。海にいた猫だからウミネコとか」
「可愛いが、本人がどう思うかだろう」
うにゃっ! 食べ終えた猫もどきは顔を洗いながら、何か合図を送る。一斉にルシファーとリリス、イポスがヤンを見つめた。すっかり翻訳係扱いだ。
「気に入ったそうです。個体名だと思っているようですね」
まあ本人しか確認されていないなら、問題はない。ひょいっと抱き上げて、蹴り蹴り攻撃中の猫の腹を覗き込んだ。
「メスか」
「女の子なの? うちの子になる?」
止める前にリリスが打診してしまい、ウミネコと名付けられた子はこくんと首を縦に振った。魔王城に愛玩用の魔獣猫が増えた瞬間である。魔王妃となるリリスの言葉を否定するのも難しく、ルシファーは唸った。
視察グループの人数が増えたので、ベールに定期報告しておいた方がいいか。リリスの腕にウミネコを預け、ルシファーはベールに連絡を取った。海辺で猫を拾い、魔族だったので保護したこと。魔獣であるヤンと会話が可能で、仲間が見つからないことまで話す。
「陛下、なぜ海辺におられるのですか?」
「食事を海で現地調達したからだ」
きりっと言い返す。用意していた言い訳その一である。
「そうですか。今日の視察はどことどこへ行かれました?」
「……海と海辺だ」
二箇所聞かれたら二箇所返す。だが海と海辺はほぼ同じだった。ルシファーの背に冷や汗が伝う。
「なるほど。仕事をせずに遊んでおられたのですか」
呆れたと言いながらも、新種発見の功績でお叱りは短く済んだ。魔王軍が回収に来てくれるので、ウミネコは先に魔王城へ帰還が決定する。本人にはよく言い聞かせ、魔獣系の世話役をつけることになった。ちょうど侍従として働くコボルトがいる。フルフル辺りは人懐こくて、相性も悪くないだろう。
迎えに来たのは、まさかの将軍職だった。
「魔王陛下、いつも娘がお世話になっております」
サタナキア公爵その人だ。イポスの父であり、溺愛する娘の顔を見たいと飛んできたらしい。足代わりに使われた竜族は、魚の残りをくれて機嫌を直してもらった。
「いや、いつもイポスに助けられている。優秀な娘で親として誇らしいだろう」
「はい」
そこは謙遜する場面だが、魔族にそういった感覚はあまりない。褒められたら素直に受け入れるリリスのようなタイプが多かった。ましてや最愛の娘が魔王妃の護衛となり、魔王と同行しているなど、自慢以外の何物でもない。
「連れて帰ってもらうのは、この子だ」
ウミネコを手渡すと残念そうに受け取る。ちらちらと娘を見る父親の気持ちがわかるだけに、ルシファーは妥協案を出した。
「こうしてはどうか。護衛としてサタナキア将軍を借り受けよう。ちょうどイポスは休暇の消化が間に合っていない。彼女は自由にしてもらおう。それから……ウミネコは魔王城へ持ち帰ってくれるか?」
魚を食べ終わって口周りを拭っていたドラゴンは大喜びし、猫を咥えて飛んでいった。後ろ姿を見送りながら、サタナキアの肩を叩く。
「護衛といっても名目だけだ。楽に過ごせ」
感涙するサタナキアに、イポスは困惑した表情ながらもハンカチを差し出した。
なお、連れ帰られた猫を「ウミネコ」と呼び、それは「鳥の種類では?」とアベルが指摘するのは数日後の出来事である。
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