1271. 大人の飲み会は賑やかに
サタナキアは娘イポスとの間に行き違いが生じた時期もあるが、現在は仲がいい。婚約者のストラスとも交流を深め、実の親子のようだと評判だった。将軍職を務めるため厳しい顔をしていることも多いが、ルシファーの知るサタナキアは子供好きだ。
「休暇の消化が間に合っていないと聞いたが、ストラスとは会えているのか?」
「ええ。彼は魔王城の研究所勤めだから、ほぼ毎日顔を会わせてるわ」
「それは仕事の延長だろう。もっとゆっくり……そうだな、デートをしないといけないぞ」
親子の会話を微笑ましいと見守るルシファーは、ヤンをソファ代わりに寛いでいた。当然腕の中では、最愛のリリスが休憩している。ほとんど眠りに落ちたリリスは、うとうとしながらヤンの毛皮に頬ずりした。ヤンは慣れたもので、ゆったりと前足を交差させた上に顎を置いて寛ぐ。
「デート? でも街で会うだけじゃない」
「全然違う。騎士服以外の可愛い姿をストラスに見てもらい、彼の研究用白衣以外の恰好も見たいんじゃないか?」
「……それは、そうね」
イポスも納得した様子で頷く。イポスはきっちりと詰襟の騎士服を愛用し、仕事中はワンピースやスカートを着用しない。ストラスも研究で忙しいため、白衣姿が多かった。アスタロトはそういう部分に疎いため、母親のアデーレが何度か注意したらしい。
親子の会話を聞きながら、ルシファーは欠伸をかみ殺す。眠り始めたリリスに釣られたのもあるし、ヤンの腹の毛皮は柔らかく温かい。ついつい眠気を誘われてしまうのだ。眠気を覚ますため、サタナキアに声を掛けた。
「話が一段落したなら、野営の準備をしよう」
申し訳ありませんと硬い口調で謝罪するサタナキアに、問題ないと言いながらリリスをヤンに預ける。夕暮れから夜闇に変化する空の下で、リリスはぐっすり眠る。起こさないよう彼女の周囲に遮音の結界を張ったが、波の音が消えたことで逆に起こしてしまった。
「ん……、ルー?」
懐かしい呼び方に、リリスが寝ぼけているのだと悟る。あの呼び方はまだ発音がうまく出来なかったリリスが呼んだ略称だった。
「悪い、起こしたか」
砂浜に簡易の宿泊用テントを建てたルシファーは、苦笑いしてリリスを抱き起こす。テントと呼ぶには豪華過ぎるセットは、魔法と収納を駆使した居心地抜群の施設だった。転移で魔王城へ戻って、翌朝また視察に来る方法もあるが、せっかく留守役を決めて出て来たのでゆっくりしたい。
「あふっ……うん、ぁ……」
欠伸なのか吐息なのか。不思議な声をあげてリリスはまた眠りの腕に落ちていく。これは夕食どころではなさそうだ。テント内に眠らせて外へ出た。このテント内はルシファーの結界が応用されいるため、外部から侵入されたり襲われる可能性は皆無だ。
「昼間の魚もあるが……これでどうだ?」
海水ごと海老を捕まえる。蟹も数匹混じっており、それを砂浜の上に下ろした。慎重に海水を捨てると、砂に降りた蟹が逃げる。だがサタナキアとイポスが素早く確保した。海老を前足で捕まえたヤンも得意げにヒゲを揺らす。
「よくやった、これを焼いて食べよう」
「リリス様はよろしいのですか?」
「寝ているのを起こすと可哀想だし、残しておいて明日焼いて渡すことにしよう」
改めて海水を結界で囲うと、その中に海老や蟹を泳がせた。明日捕まえてもいいのだが、リリスは一緒がいいと口にするだろう。サタナキアがお気に入りの酒を取り出したのを見て、イポスが調味料とワインを提供する。手早く海老や蟹を焼き、飲み会が始まった。
リリスが生まれるより前には、よくこうして飲み会をした仲間だ。サタナキアは豪快に酒を飲みながら、ツマミにとチーズを取り出した。こうなると酒が進む。酔いにくい体質もあり、ルシファーは水のように蒸留酒を流し込む。盛り上がるルシファーとサタナキアの宴会は、付き合ったイポスが潰れるまで止まらなかった。
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