1253. 仲直り中にぷるぷる侵入
1万年前のお気に入りワインを振る舞い、アデーレも呼んで4人で食卓を囲む。その足元に大型犬サイズのフェンリルが、そっと添えられていた。いざという時の和み要員だ。
「ルシファー様が無謀なのはいつものことです。止める私の方が悪者なのも慣れましたよ」
ワインを水のようにがぶ飲みしながら、アスタロトが拗ねた口調で文句を言う。この状態になれば、事実上の仲直りだった。酔ったわけでもなく普段の澄ました態度を捨てるのは、彼らの間で暗黙のルールなのだ。ルキフェルやベールも同様で、ベルゼビュートは本当に酔うからタチが悪い。
互いに気を許した、昔の状態に戻ることで蟠りを消してきた。
「まあ、そういうな。お前のおかげで本当に助かってる」
ワインを注ぎながら、アスタロトに別の料理皿も勧める。こういった場なら、大皿料理の方がいいだろうとアデーレの選択だった。慣れた手つきで取り分けるアデーレに礼を言い、アスタロトは珍しい料理を頬張って手を止めた。
「これは……巨大亀の爪?」
「爪も大きかったので腕ごとカットして保管していた。すっぽん、だったか?」
異世界の穴から降ってきた巨大亀すっぽんを思い出し、アデーレが目を輝かせる。女性の肌に効果が見込めると、あの時の鍋は非常に人気があった。鍋にする肉は足りていたので、手足や首はルシファーが収納に保管していたのだ。
「肌が綺麗になる亀でしたよね」
「え? そうなの? 私も食べるわ」
急に身を乗り出す女性2人に亀の皿は譲る。本当に肌に艶が増すかどうかは、結局曖昧なままだった。鱗がある女性が、鱗の透明度が増したと喜んでいた報告は受けたが。
顔を見合わせたアスタロトとルシファーは笑いあうと、別の皿を突き始めた。ワインはがばがばと流し込まれ、希少性もへったくれもない。ついには注ぐのが間に合わず、手酌が始まった。
「ルキフェルが持ち帰った、あの透明の生物ですが……」
「ああ、エルフによると森に最近現れたらしい。ゴミを消化するので便利だと聞いたぞ」
「誰か意思の疎通はできていますか?」
「現時点ではわからんが、何となく考えてることがわかるような気がする。魔物より魔族寄りだな」
幻獣や神獣辺りに試してもらうのもありだろう。淡々と話を進め、ふと動きを止めた。ルシファーの視線の先、床の上に透明っぽい何かがいる。
「おい、アスタロト。あれ……何だと思う?」
「……先程の生物のようですが」
個体の区別はつかないから、同じ個体か不明だが。魔王城の内部に侵入されたのは問題だった。防衛魔法陣が一切反応していない。この状況でもし、彼らに攻撃の意思があったとしたら? こちらは気付かぬうちに攻撃される可能性があった。まあ魔王や大公であれば、結界がある。
侍従や侍女の中には、結界は使えない魔力の弱い種族もいた。人狼のように、魔力はあれど使用できない種族も保護されている。問題だと呟いて立ち上がり、無造作に手で掴んだ。
手に付いた肉の脂を吸収してもごもごと動く姿は、状況に似合わぬ愛らしさがあった。
「ルキフェルに聞いてみるか」
実験動物を逃すような奴ではないが、もしかしたら別の何かに夢中で置きっぱなしにしたかも知れない。ワインを樽単位で開けた2人は、護衛にヤンを残して部屋を出た。リリスとアデーレは彼らが消えると、こっそり収納からプリンを取り出す。数は7つだった。
「いい? アデーレと私が二つ、口止めにヤンにひとつ」
残りは帰ってきたルシファー達を交えて、みんなで食べましょう。にっこり笑うリリスに悪気はない。アデーレはくすくす笑いながら同意した。おそらくバレますが、たまにはいいでしょう。
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