1252. 飼ってもいい?
顔を上げてもまだ言い争っているルキフェルとアスタロト。注意した方がいいか? 迷い始めたルシファーに後ろからリリスが抱き着いた。思ったより勢いがあり、落ちないように支える。後ろから首に手を回して抱きつき、背中によじ登るようにして手元を覗き込む。
そっと手を回してスカートの裾が捲れていないか確認するあたり、ルシファーは変なところに気の回る男だった。まったく気にしないリリスはぷるぷるに、目を輝かせる。
「これ可愛いわ!」
「そうだな、意外と可愛い」
確かにリリスが好きそうだ。きらきら輝くものや透き通ったガラス細工などを好む彼女は、ご機嫌で指を突っ込んだ。
「冷たくないし、でも温かくもないのね」
不思議な生き物をよく見るために、リリスは前に回り込んだ。箱に入ったぷるぷるは、怯える様子もなく中央で揺れている。
「持ってみるか? 見た目より軽いんだ」
安全だと判断したルシファーは、それでもリリスを包む結界をもう一枚増やす。にこにこしながら両手で包んだルシファーに、大公2人は悲鳴を上げた。慌てて取り上げようとするが、びみょーんと伸びるだけで取れない。
「嫌がっているぞ、やめてやれ」
アスタロトに注意するものの、気づいたら主君の手を掴んで離さない得体の知れない生き物を、彼は敵対視した。すらりと愛用の剣を抜くので、慌ててルシファーが背を向ける。待っていたルキフェルが同じように引っ張るが、取れなかった。
「ルシファー様、無駄な抵抗はやめてください」
「オレが悪いのか?」
悪くないだろと反論しつつ、庇う形で抱きこむ。リリスがくるりと回り込み、腕を絡めて手を伸ばした。すると、さっきまで大公が引っ張っても取れなかったぷるぷるが、するりとリリスの手の上に移動する。
ゆらゆらと揺れる姿に、リリスの頬が笑み崩れる。その間にルキフェルはルシファーの手を握り、肌に傷がついていないか確認し始めた。アスタロトが剣をぷるぷるへ向けようとした瞬間、周囲が一気に凍りつく。
「アスタロト、その剣を誰に向けるか。我が妻となるリリスだぞ」
「も、申し訳ございません」
正確にはリリスではなく、ぷるぷるなのだが……魔王の怒りと殺気に謝罪が口をついた。素直に応じて剣先を下げたアスタロトに、ルシファーはそれ以上言及しなかった。自分が手にしている時に向けられても、ここまで怒りはない。だがリリスは別だった。
一瞬冷えた場の空気に、愛想笑いを浮かべたエルフが離脱を図る。仲間に手を振り駆け寄るという荒技で、現場から離れた。ルキフェルは確認し終えた手を離し、リリスが両手で包むようにしたわずかに水色がかったぷるぷるを観察する。
「ねえ、僕の手に乗せてみて」
「この子が行くならいいわ」
下に両手を器のようにして待つルキフェルの目は、期待に輝いている。迷うように、触手のようなツノを出したり引っ込めたりしていたが、ぷるぷるはルキフェルの手に移動した。
「すごい! 何だろう、飼ってもいい?」
「魔物だったら飼育許可を出すが、魔族だったら相手と交渉しろ」
ルシファーの指示に頷き、ルキフェルはそのままぷるぷるを持ち去った。問題となる獲物が消えた状況で、残されたのは冷え切った空気、物理的に凍った足元、ルシファー、リリス、アスタロトだった。
小言を並べる気も失せたアスタロトが一礼して場を辞すると、リリスがルシファーの腕を掴んだ。
振り向いたルシファーの頬をリリスが指でぷすっと押す。
「アシュタに、ちゃんと謝りなさいよ。ケンカはダメ」
「……ケンカとは違うが、そうだな。夕食にでも誘ってみるか」
あまり悄げさせたまま放置したら、回復に時間がかかるからな。アデーレに相談するべく、2人は芝生を踏みしめて中庭を通り抜けた。
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