1338. 順調すぎると足元がぐらり
ドレスが決まれば、スプリガンがジュエリーの準備に入る。それに合わせて、ケットシーが靴をデザインし始めた。すべてがオリジナルのオーダー品なので、あれこれと細かな部分に注文が入る。
「これで手配は終わりか?」
「まだよ! 化粧を選んでないもの」
これに関しては、ルシファーが口出しできることはなかった。アデーレが母親のように口出しし、大公女達もあれこれと案を出す。その様子を紅茶片手に見学することになった。ルキフェルが持ってきた魔法陣を再確認したり、改善点を見つけて指摘する時間を過ごす。
「化粧が終わったら見せてくれるのか?」
「「ダメよ(です)」」
大公女達に口を揃えて反対され、勢いに後ずさる。衝立の向こう側で化粧を終えたリリスは、姿を見せてくれなかった。
「当日のお楽しみよ」
「そうですわ。すべて知っていたら、新鮮味がありません」
「花嫁を式の前に見ようなんて、立派な殿方のなさることではないですわ」
軽く人格否定されてないか? すごい勢いで捲し立てられ、ルシファーはこくんと頷いた。
「わ、わかった。見ない。部屋から出ていた方がいいか?」
「いいえ、ここでお待ちください」
なぜか待つことを強要される。よくわからないまま座って両手を膝の上に揃え、大人しく動かずにいた。化粧を落として結った髪を解いたリリスは、30分ほどで姿を現す。
「お待たせ、ルシファー」
「待ってないぞ」
ここで頷いたら大顰蹙なのは理解できる。微笑んで受け流すのは年の功だ。鼻歌まじりのリリスと腕を組み、連れられるまま外へ出た。ついてきたのはルーサルカで、結婚式当日の飾り付けの花について相談があるらしい。温室で薔薇を選び、エルフ達に大量生産を頼む。
外へ出ると、待ち構えていたルーシアに連れられ、会場のテラスから撒く祝い品の選定に入った。これは小さな菓子を振る舞い、幸せをお裾分けする習慣から来ている。袋の種類や大きさ、中に入れる菓子に至るまで細かく吟味された。
これで終わりかと思えば、シトリーがテーブルセットの相談を始める。使うテーブルと椅子は決まったのだが、テーブルクロスと飾り付けの希望を聞きたいと言われた。いろいろと意見を出したことで、後日再検討となってしまう。だがシトリーは満足そうだった。それ以上にリリスの機嫌がいいので、ルシファーに異論はない。
「テーブルの薔薇は、ピンクがいいわ。でも彼女達の結婚式も兼ねてるから、青や黄色も欲しいのよね」
大公女はそれぞれのカラーでドレスを選ぶため、ピンク一色というわけに行かない。それならば、とルシファーが提案したのは魔法による薔薇の色変えだった。
「時間で薔薇の色が入れ替わる仕組みはどうだ?」
「薔薇に負担じゃないかしら」
「ベルゼあたりに相談してみるが、後はテーブルの花瓶ごと入れ替える方法もあるな。順番にぐるりと薔薇を回せば、式の間ずっと薔薇の色が変化する」
これならば花瓶ごと移動なので、薔薇に負荷は掛からない。右隣のテーブルから回ってきた薔薇が、自分達のテーブルを飾った後で左隣へ回る。単純な方法なので、魔法陣を花瓶に仕掛けるだけで済むはずだ。
5色の薔薇を飾ればいいし、自分の好きな花があれば、薔薇以外の花でも構わない。そう言われて、リリスの考えは花瓶ごと入れ替えに傾いた。花瓶もそれぞれに好みの物を選んだら、もっと個性が出せるわ。微笑むリリスに、ルシファーも頷いた。
「陛下、大変ですわ」
足早に近づく侍女長アデーレを振り返った魔王は、思わぬ発言に目を見開いた。
「結婚式の会場が狭すぎます。すべてのテーブルを並べるには、広場が足りません」
……言われてみたら、確かにそうだ。城門前広場や中庭を開放しても、面積が足りない。何か秘策を打ち出さないと、入れない種族が出てしまう。各地に設置した転移魔法陣が実用化されれば、多くの民が押しかけるだろう。
「森を、切り拓いてもいいのかな?」
唸りながら絞り出した案に、リリスがくすくす笑いながら口を開く。
「伝えておくわ。魔の森がルシファーの願いを跳ね除けることはないと思うけれど」
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