1339. なぜギリギリまで後回しにしたのか

 魔の森を切り拓く許可はあっさりと下りたらしい。というのも、リリス経由なので自分で確認できていなかった。だが大切な婚約者で養い子のリリスを疑う理由がない。


「そうか、確認してくれてありがとう」


 穏やかに礼を言い、トラブル防止のためにルシファー自身が伐採することになった。2枚の翼を広げて降り立った森にゆっくり一礼する。


「森を切り拓き利用させていただく。御身を傷つけぬよう配慮するゆえ、許していただきたい」


 ざわざわと揺れる森は、異論はないと返したのか。数本をルシファーが切り倒しても、魔力を吸収することはなかった。いつもなら、切り倒され傷つけたられた分を魔力として周囲から徴収する。今回はゆらりと葉を揺らしただけで、何も起きなかった。念の為に出した羽をしまう。


「魔の森の懐は深いな」


 感じ入った様子のルシファーが呟く。これほどの愛情を示す森は、大きな見返りを求めない。今回は伐採される面積が、人族を倒して得た面積より大きかった。魔の森全体の面積は増えており、問題なしと判断されたようだ。


「ルシファーを好きで好きで仕方ないのよ。私と同じね」


 森の分身であるリリスは、にこにこと肯定した。城門前の広場から城下町までの森を切り拓き、西側へさらに拓く。これでおおよその広さは確保できた。魔力を高めて大地を揺らし、土地を斜めに整地する。緩やかな傾斜の頂点は、魔王城の城門だ。そこから城下町の方へ斜めに下がっていく。元の高低差を利用した坂は、参列する魔族への配慮だった。


 土地を斜めにすることで、魔王城の城門がどの場所からも見えるようにしたのだ。花瓶移動のアイディアを転用し、テーブルごと移動も検討された。背の高い種族が前に座ると見えなかったり、遠すぎて豆粒ほどにしか確認できない場所が出てしまう。一定時間で回ることにより、全員が一度は魔王と魔王妃の艶姿を正面で見られるようにと考えた。


「多少忙しいですが」


「料理はどうします?」


 料理番のイフリートが相談に訪れる。食材のキノコ狩りの途中らしい。両手に大量のキノコが入った籠を下げていた。


「結婚式の後で立食パーティーにする予定だ」


「では大皿で構いませんね。牛や豚の丸焼きが出せます」


「取り分けやすいよう、切れ目を忘れないでくれ」


 巨人族のように大柄な種族ばかりなら問題ないが、小さな魔獣系も参加する。種類も様々で、気が遠くなる量と食材を揃えなければならなかった。


「ご安心ください。即位記念祭の10倍規模で準備を進めています」


「ならば問題ないか……たぶん」


 今まで祭りに参加できなかった神獣や霊獣も参列するため、彼らの好みの食材も集めさせなくては……。考えながら予定の面積を伐採し終わり、ルシファーはリリスを振り返った。


「リリス、一度城に戻るぞ」


 木の根や切り株の処理は、エルフとデュラハンが立候補した。後から巨人族も協力しに顔を出す予定だ。打ち合わせを終えたルシファーは、中庭に空間転移した。


 結婚式まであと1年弱。もう時間が足りない。様々な手配をしつつ、ベールに最終確認を押し付けた。真面目で細かなところに目が行き届く人物で、責任感があり、過去にアスタロトの結婚式の指揮を取った経験者だ。


「謹んで承ります」


 ルキフェルは転移魔法陣の最終実験を行い、太鼓判を押して報告書を提出した。これで人流の調整だけになる。どの種族から先に転移させるか。到達点がすべて魔王城の中庭になるため、順番を決める必要があった。まだまだ決めることは山積みだ。


「……あんなに時間があったのに、どうして今追い詰められてるんだ?」


 リリスを魔王妃にすると宣言してから、

十数年あったじゃないか。何一つ手を打っていないのはなぜだ?


「陛下が最後まで仕事に手をつけないのと同じ理由です」


 締め切りが来ないと働かないことを揶揄され、ベールを睨みつけながら足早に逃げた。

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