1381. 派手な演出が続く広場
転移で現れた美しい花嫁達に、人々がわっと喝采を送る。手を叩き褒め称えられ、頬を染めた彼女達はそれぞれの夫の隣に腰掛けた。だがリリスだけ、ルシファーの膝に座る。幼い頃から当たり前だった行動に、周囲は「ああ、ほら……あの二人だから」と納得した。
いつもならマナーが云々するアスタロトも、さすがに今日は説教を諦める。ベールは苦笑いしたものの、やはり余計な口出しは控えた。折角の祝いの場だ。多少羽目を外しても構わないだろう。
そもそもが魔族にとっての礼儀作法は、他種族や他者に迷惑をかけないためのもの。統一された民族ではないので、皿に口を付けて飲むなと言った作法は存在しなかった。魔獣なら皿から直接飲むのは当たり前、種族によっては皿ごと消化してしまうのだから。
自分と違う外見の者を差別しないことが重要で、それ以外は弱肉強食の掟が優先されるのだ。最強の魔王の言動を咎める者は、この場にいなかった。
「素敵だぞ、リリス。散らした宝石が星のようだな」
「ありがとう。ルシファーもとっても素敵」
互いに見つめ合って褒め合う姿に、早くも酔っぱらったドワーフのおっさんが「早く子を産めよ」と叫んで、奥方に殴り倒される。そのまま同族の女性達にぼこぼこにされて、後ろに投げ捨てられた。斧や槌を担いで勇ましいドワーフも、妻には形無しである。同族も助けようとせず、そっと目を逸らした。これは関わるととばっちりを浴びることを理解しているのだ。
デリケートな問題に踏み込んだドワーフが粛清されたのを見て、酔っ払い達は青ざめた。節度と自制は己の身を助けるのだ。この後ヤジを飛ばす勇者は現れず、ある程度盛り上がったところで、それぞれに花嫁花婿が手を取り合って立ち上がる。
「まず私達ね」
ルーシアとジンは顔を見合わせ、用意してきた水の球を上空へ放った。ジンが起こした風が水を巻き上げ、竜巻のように一本の水柱を作り上げる。水を一気に凍らせた。捩れた氷の柱に二人が近づき、両手を押し当てる。途端に、柱の一部が削れて小さな氷粒が降ってきた。彫刻するように、新しく木の枝が伸びるように。
柱から生まれた氷の枝に葉が付き、花が咲く。そのたびに氷の粒がきらきらと舞い散った。幻想的な光景に歓声が上がる。最後に上から崩れて、地上に大きな氷の華を咲かせた。徐々に溶けていく氷を見ながら、人々は拍手喝采だった。
大公女による催し物の一環だ。ここで一礼したルーシアとジンが場を離れた。各種族のテーブルを回るのだ。テーブルクロスが掛かった丸テーブルには薔薇が飾られ、各種族の代表が席に着いていた。会釈する新婚夫婦に、人々は優しい声や言葉をかける。穏やかな時間が始まった。
「ルーシアが派手だったわ、予定変更よ」
「任せろ」
気合を入れて臨んだのは、ルーサルカとアベルだった。以前にリリスへ世界樹の幻影を生み出した彼女だが、今回は違う趣向を凝らしている。アベルが収納から取り出した剣の鞘を抜いた。美しい剣が月光を弾く。魔王チャレンジの褒賞として受け取った剣だった。
剣舞でも見せるのかと期待する人々の前で、アベルはその剣を上空へと掲げた。ルーサルカが祈るように両手を組み、内側に息を吹き込む。近づいて、互いの体の一部が触れた瞬間……大きな光が剣を抜けて空に放たれた。花火ではない。光は周囲を照らし出し、まるで太陽が生まれたようだった。
「えいっ!」
アベルが剣を持ち替えて、槍投げのように光へ向けて放つ。貫いた剣がぱっと手元に戻った。鞘に納める音が響いたが、人々の視線は頭上に釘付けだった。きらきらと輝く光が、鳥や蝶、花の形になって散っていく。降り注いだ光は何かに触れると消えてしまった。
暖かな光が舞いながら消えていく姿に、感嘆の声が漏れる。本当は小さな光を人々の上に下ろす予定だったが、一番手のルーシア達が華やかだったので急遽変更を加えたのだ。
「……これは、最後のオレ達も気合を入れないとな」
披露する順番が後ろにいくほど、期待が高まりそうだ。苦笑いするルシファーの膝で、リリスはうっとりと友人達の演技に見惚れた。
「ルシファー、花火を少し変更しましょう」
「もちろんだ」
こそこそ相談を始めた魔王と魔王妃の姿は、傍目からはイチャついているようにしか見えない。耳元に唇を寄せて囁くルシファーに、興奮で頬を染めたリリスが頷いた。
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