1331. タコ焼きパーティーは大騒ぎ

 アンナとイザヤが招集され、無事レラジェは養親の元へ帰された。ちなみに育児休暇中の彼女達の給与に、レラジェの養育費を別途追加する形なので、意外にも裕福な日本人夫婦である。ベストセラーとなった恋愛小説の収入もあり、彼らの未来は明るかった。


「あ、タコ焼き?」


 仕事を終えたアベルが合流し、ルーサルカの手伝いを始めた。手際がいいのでルーサルカが褒めると、照れた様子で「学校の祭りでタコ焼き屋台を出したんだ」と暴露した。


 学校に祭りがあるという部分に食いついたのは、シトリーだ。最近教育部門に興味を持ち始めた彼女は、保育園を出た子どもが通う学校の創設に関する資料に盛り込むつもりだろう。各地を繋ぐ転移魔法陣があれば、学校への通学も容易になる。この辺も盛り込んだ計画書にするよう、ルシファーは言葉を添えた。


 出来上がったかまどに、アムドゥスキアスが火を入れる。火種を魔法陣にしたため、薪を燃やす必要がなかった。温まる鉄板に、アベルが油を流した。ドラゴン用の耳かきの新品を提供してもらい、鉄板の丸いくぼみに丁寧に油を塗る。


 リリスの横でタコを切断したルシファーが、その穴にひとつずつタコを投げ入れた。間髪空けずにリリスがタネを流す。じゅっと湯気が上がり、周囲で見守る魔族は盛り上がった。今のところ焼きタコで食あたりを起こした種族がいないため、ほとんどの魔族が口に出来るだろう。


「こうやって回すんすよ」


 竹串片手にくるくるとタコ焼きを返す姿は、思ったより好評だった。アベルの手際のよさに感心していると、呼び出されたアンナが双子を連れて覗き込む。


「あら、アベル上手ね」


「俺より手際がいいかも知れないな」


 イザヤも苦笑いする。周囲の喝采と誉め言葉に気分を良くしたアベルは、あっという間に丸いタコ焼きを仕上げた。ルシファーが切ったタコが少し大きかったようで、歪にはみ出した物もある。もちろん無料で配布されるため、人々が行列を作った。


「ルシファー様、これは……仕事は終わったのですか?」


「アスタロト。そう顔を顰めるな、皺が寄るぞ。世界の裂け目はほぼ塞いだ。ルキフェルと作る魔法陣で、今後は半自動化して対応できる予定だ」


 ちゃんと今後のことも手を打った。にやりと笑う主君に、アスタロトは表情を和らげた。やれば出来るのに手を抜く魔王も、今回はきちんと動いてくれたらしい。安心しながらタコ焼きの鉄板を眺めた。途中で交代したイザヤが、くるくるとタコ焼きを丸めていく。


「器用ですね」


「アベルの方が上手ですよ」


 熱い鉄板から離れて水を飲むアベルが、ルーサルカから受け取ったタオルで汗を拭う。その姿を見つめるアスタロトの眉間にまた皺が寄った。可愛い義娘についた男を婚約者と認めながらも、やはり気に食わない。そんな本音が透けていた。


「ぐぁああああ! 何これぇ」


 頭上で叫んだピヨの声に人々が顔を上げるまで、城門前は平和だった。珍しい食べ物に盛り上がる民と、振舞う魔王や大公、日本人達。その光景が一変したのは、頭上に現れた大きな裂け目が原因だ。城門を飲み込みそうな裂け目に、ルシファーが咄嗟に結界を張った。


 もし魔力を吸い上げるタイプだったら、集まった民が危険だ。結界を維持する魔力が流出する感覚に襲われ、慌てて翼を2枚広げる。その姿に事情を察したアスタロトが動いた。


「民の避難を! 中庭に逃げなさい!!」


 誘導された民は一目散に逃げ出した。ルーサルカが魔法で大地を起こしてかまどを飲み込む。悠長に消火する時間はなかった。作りかけの鉄板ごと土で覆い、駆け寄ったヤンが大公女や日本人を背中に乗せる。ピヨはアラエルに回収され、ルシファーは愛するリリスを腕に閉じ込めた。


「森が眠る前に手を打たなくちゃ」


 リリスが呟いた声は誰の耳にも届かなかった。

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