1061. 説得すればいいのね
「というわけで、どうしよう」
ルキフェルは迷った末、アデーレに相談した。さすがに乙女の悩みなので、ベールに話すのは気が引ける。それにリリスのアデーレに対する信頼を知っていた。だから相応しい相手だと思ったのだ。
「そうですわね。体重はどのくらいですか」
「これ、彼女のデータ」
カルテを手渡す。その数字を見るなり、アデーレが顔を顰めた。
「食事量が少なすぎますし、軽すぎます。腕や腰も細すぎますね。基本は人族と同じと考えれば、この1.2倍は太らせたいですわ」
「でも本人が拒んでる」
頭を抱えて、溜め息を吐く。女性の気持ちなんて、わかるわけないじゃないか。しょちゅう揺れ動く不確定さは、研究対象にもならない。ベルゼビュートの自分勝手な振る舞いだって持て余して……ん?
ルキフェルがぼやく声を止めて、自分の発言を確認する。
「ベルゼビュートに頼もう」
「そうですわね。あの方、豊満ですもの。あとは大公女から、レライエ嬢とルカも」
「悪いけど、外出許可をとってくるから話しておいて」
「承知しました」
シトリーとルーシアはまずい。まずルーシアは精霊族のため、体重がやたら軽い上に細いのだ。シトリーも似たような理由だが、彼女は鳥人族だ。空を飛ぶ鳥に脂肪が少ないのと同じく、体脂肪が少なく体が軽いのが特徴だった。
その点、ドラゴンのレライエは筋肉質でがっしりしている。ルーサルカも狐の半獣人なので筋肉がついていた。ベルゼビュートも精霊系だが、何しろ豊満な肉体を持っている。実は彼女は精神体ではなく、他種族と同じ肉体を纏っていた。だから体重も見た目以上にある。
ルキフェルは外出許可を得た大公女を2人連れ、大急ぎでベールの城にとって返した。さらにベルゼビュートを呼び出す。
「何よ、私だって忙しいんだから」
転移してくるなり文句を言う精霊女王を含め、ルーサルカとレライエにも事情を説明した。アンナが痩せすぎて危険だという話に加え、栄養失調にも陥っていること。このままでは命が危ないと付け加えた。
「わかりました。説得すればいいのね」
ルーサルカが表情を引き締める。レライエは、肩に掛けたバッグごと婚約者を下ろした。
「アドキス、悪いがお前は待機だ」
「うん。早く帰ってきてね」
寂しそうにしながらも、女性同士の話に割り込むのはデリカシーがないと頷く翡翠竜。とても魔王城を半壊させた過去を持つドラゴンには見えない。バッグから這い出て、よたよたと歩き婚約者の足に頬擦りした。
「イザヤはこっちで預かるから、食べる必要性を言い聞かせて」
最後の手段はあるが、それは使いたくない。ルキフェルの言葉に、ベルゼビュートが笑顔で請け負った。
「わかってるわ。女の子同士、話せば分かるわよ」
「「女の、子?」」
ルキフェルとアムドゥスキアスが複雑そうな声を出すが、さらりと無視された。
「行くわよ」
「「はい」」
大公女達を引き連れ、女大公は勢いよく他人の城を闊歩する。そのまま勢いよく部屋の扉を開けた。
「ちょっと話があ……っ」
ベルゼビュートが固まる。それもそのはず、彼女が開いたのは隣の扉、部屋が違っていた。着替え中で一糸纏わぬ裸体の獣人が「見られ、た」と涙目で股間を隠す。ベルゼビュートの背が遮ったため、少女達は見ずに済んだが。
「部屋をちゃんと確認して。それからノックは礼儀だろ」
ルキフェルはベルゼビュートの巻毛を引っ張って、隣室の前に立たせた。少し頬を染めたベルゼビュートは、ぺろりと赤い唇を舌で舐める。
「次の恋人は獣人にしようかしら」
「毒牙にかける相談なら、ベールにチクるよ」
嗜めながら、ルキフェルは日本人が滞在する部屋の扉を叩いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます