344. デートを邪魔する無粋な声
頬張りすぎて咳き込む小人の背中を、指先でそっと擦ってやる。一息ついた途端にまた口いっぱいに食べ物を詰め込む姿に、ルシファーが声をかけた。
「大丈夫だ。誰も取ったりしないから、ゆっくり食べろ」
ぴたりと動きを止めた小人は、ルシファーをじっと見上げたあと、今度は少しずつ口に運ぶ。一口食べては顔を見て、また口に食べ物を放り込んだ。本人が満足するまで食べさせることにする。
ルシファーに渡された紅茶を飲むリリスは、端を砕いた焼き菓子の残りを食べた。するとルシファーが「少し早いけど」と、バケットサンドを取り出す。長細いバケットに切れ目を入れて、ハムやチーズ、野菜をふんだんに挟んだサンドウィッチの一種だ。
長いまま持ってきたので、ナイフを取り出して半分に切った。また半分に切る。繰り返して食べやすい大きさに切り終えた頃、ふと気づいてソーサーの小人を覗き込んだ。
頭を抱えて怯えた様子で蹲る小人は、ちらりとこちらを見るとまた伏せてしまう。
「なんだ?」
「刃物が恐いのかしら」
「ナイフを仕舞うか」
別に魔法で切ってもいいのだが、食べ物はナイフでカットする方針だったルシファーがナイフを収納する。銀色に光る刃物が消えると、小人はもそもそ起き出した。確かに刃物へ恐怖心を抱いているように見える。
「この大きさだから、ナイフはすごく大きく見えて怖いのかも知れないわね」
リリスはバケットサンドを一つ手に取り、パンを少しだけちぎる。小人サイズになるように、何度も手の中で千切ったパンをソーサーに乗せた。続いてハム、チーズ、レタスを置く。
「飲み物もやった方がいいんじゃないか?」
「小さいカップがないわ」
足元に寝そべったヤンが身を起こし、ソーサーを覗き込んだ。少し考えながら歩きだし、何かを咥えて戻ってくる。
「姫様、こちらは使えませんか」
手の上に落とされたのは、丸い形の花だった。
「すごいわ、ヤン。花粉を落として使いましょう」
紅茶で濯いで花粉を落とし、もう一度上から紅茶を注ぐ。倒れないよう魔力で維持した花を覗いた小人は、躊躇なく紅茶に顔を突っ込んだ。いろいろと豪快な食べ方をするが、よほど飢えていたのだろう。
「パパ、この子が新しい種族なら魔族になるの?」
「うーん。意思の疎通が
消去法での分類しかない。しかも小人に同種族が居なければ、繁殖せず絶えてしまう可能性があった。いろいろ気を揉んでいるリリスには聞かせたくない現実だ。
「人みたいな姿なのにね」
パンを齧る小人に微笑みかけながら、リリスはハムについた胡椒の欠片をはらった。
「陛下、緊急事態です」
リリスとのデートを邪魔する無粋な声に、ルシファーが顔を引きつらせる。緊急事態なら仕方ない。そう思う反面、オレを呼び戻すほどの緊急事態か? と疑いの眼差しを向けた。
「なんだ」
「リリス様、お邪魔して申し訳ありません」
人相が悪くなった美貌の魔王を無視して、アスタロトはさらりとリリスへ会釈する。小人のソーサーを膝の上に乗せたリリスはひらひらと手を振った。
「それで、なんだ!」
無視されたルシファーの声に、ようやくアスタロトが振り向いた。転移して来た割に、のんびり構える側近に噛みつく。ただ邪魔しにきただけなら許さん――ルシファーの睨みつける銀の瞳をまっすぐに見つめ返し、アスタロトは用件を切り出した。
「魔王城が襲われました」
「「何に?」」
期せずして、魔王と魔王妃候補の声が被った。
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