97章 世界の裂け目を潰せ
1322. 送り返すなら迅速一番
連れ帰った異世界人達は、戻る道筋が分かるらしい。道を繋ぐ魔力が足りないと訴えた。いろいろと検討した結果、やはり帰ってもらうのが実害が少ない。
「落ちたという避け目を塞がなくてはいけないな」
ルキフェルと話し合い、役割を分けることにした。送り返す道の固定をルキフェルが、魔力の供給をルシファーが行う。完全に出入り口を塞ぐにあたり、世界の裂け目を感知する魔法陣の開発も計画した。今後のためである。他にも裂け目が複数残る可能性があることから、この案はベールにも受け入れられた。アスタロトはまだ帰ってこないので、事後承認となる。
竜族と会話出来る異世界人は、ルキフェルに向かい必死で事情を訴えた。あちらに家族を残しているらしい。うち一人は、つい数ヶ月前に赤子が生まれたとか。急いで帰らないとならない。赤毛の異世界人達と全く違う姿に、自然と周囲も協力を申し出た。
落ちた裂け目は海との境にあり、異世界人達は空を飛べない。魔王軍に所属する竜族が抱き上げて、裂け目に放り込む手筈を整えた。裂け目まで魔力で階段を作ればいいじゃないかと考えたルシファーは口を噤む。部下のやる気やアイディアを否定してはいけない。上に立つ者の心得だった。危険なら手を貸せばいいのだ。
「よし、それじゃ早速戻るか」
帰ってきたばかりの城を留守にするため、ベールが留守番に決まった。転移して戻った場所は、先ほどの村とさほど離れていなかった。
「派手に燃えてるなぁ」
呟いたルシファーの言葉に首を傾げるルキフェルへ、リリスが補足する。焚火の不始末と聞き、ルキフェルは「ふーん」と気のない返事をした。興味がないのかと思えば、風を操って炎を煽っている。
「個体数管理しろよ?」
勝手に数を弄ると、後でアスタロトに文句言われるぞ。書類の数字が合わなくなると眉を寄せる部下を気遣う発言に、ルキフェルは肩をすくめた。
「帰りに数えて報告するから平気」
魔物認定されるということは、人扱いされなくなる。至極当たり前だが、人族が理解していなかった部分だろう。気まぐれに命を奪ったとしても、絶滅させなければ責任を問われないのだ。
裂け目は赤黒く、空中にぽっかりと現れる。その裏側は何もなく、空に穴が空いた不思議な光景だった。まるで裂けた皮膚から体内が覗いているようだ。裏から何も見えない上、厚みもない。
「魔法陣は出来そうか?」
裂け目の仕組みを解析するルキフェルは、手元に大量のメモを書き散らしながら唸った。
「大体はいいんだけど、座標固定が不安定だよね。ここの情報次第で、感知に引っかからないかも……後日改良と調整が必要になるね」
揺らいで不安定だと言われ、異世界人がそわそわし始める。ある程度解析したところで、先に送り返すことにした。道が塞がってしまえば、帰れなくなるからだ。竜族の男達が抱えて裂け目の位置まで飛ぶのだが、一階の屋根より少し高い。その内側へ、荷物を抱えたぽっちゃり異世界人を一人ずつ放り込んだ。
ぐぁあ! 挨拶しながら飛び込む彼らを6人見送った。リリスがご機嫌で手を振る。
「またね」
また来てもらっては困るのだが……指摘するか迷い、ルシファーは何も言わずに見守った。
送り返すための反転魔法陣を、ルキフェルが手早く設置する。魔法陣の発動に必要な魔力を確保するため、ルシファーが背に羽を広げる。ばさりと白い翼が4枚広がり、ほんのりと光を帯びた。
赤黒い裂け目は、時折り雷のように光が走る。ぴりぴりと空気を焼く熱が伝わる位置で、右手を魔法陣へ当てた。途端に雷がルシファーの肌を駆ける。
「ルシファー?!」
「平気だ、結界の外側だからな」
叫んだリリスを安心させながら、魔力を注いだ。発動条件を満たす量を放つと、きらきらと魔法陣が光り始める。くるりと半回転し、上下が逆転したところで弾けて消えた。
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