1083. 親探しは数年後

 ピヨの魔力がピンクに見える話は以前に聞いた。外見の色と魔力の色は一致しないのだ。だが、今度の雛もピンクだとすれば……兄弟や姉妹の可能性があった。


「……ピンクの魔力」


 残念ながら、ルシファーやアスタロトの能力を持ってしても、魔力の色は見えない。魔力の量や質を感じることは出来るが、可視化していなかった。


「同じピンクの魔力の持ち主を根気よく探すしかないでしょうか」


 見えるのがリリスだけなら、リリスを連れて各地を回るしかあるまい。視察に出向いた先で、こつこつ探すのが近道か。顔を見合わせた魔王と側近の隣で、リリスはポシェットから出した飴をひとつ口に放り込んだ。首を傾げて瓶を振る。


「いえ、今は結構です。ありがとうございます」


 丁重に断ったアスタロトをよそに、ルシファーは口を開けて入れてもらった。甘い物が食べたいというより、リリスが勧めたから食べただけだ。


「はふへへはひぃひゃらい」


 集めればいいじゃない。暗号めいたリリスの提案を、ルシファーが通訳する。アスタロトは行儀が悪いと呟いたものの、それ以上指摘しなかった。考えに没頭しているようだ。


 リリスにしたら、わざわざ出向いて探すのは面倒だし、視察は旅行だと思っている。ピンクの魔力探しに時間を費やすのは勿体ない。それなら一箇所に人が集まる機会を設けて、纏めてチェックした方が早かった。


 目に飛び込む色が鮮やかで疲れるが、敷き詰めた飴の中から大好きなピンクを探すくらい、何とかなる。簡単そうに請け負ったリリスが笑う。口の中の飴を転がし、からころと音を立てた。


「一番早く民が集結するのは……結婚式でしょうか」


「え? あと数年先の話だろ」


 リリスや魔の森の状況によっては、10年単位で先送りも考えられる。彼女がまだ感情的に幼いこともあり、恋人より父親の感覚が強かった。長い寿命の持ち主であるルシファーとしては、あと数十年待っても構わないと考えている。


「では即位記念祭の方が早いでしょうか」


 我慢するつもりだが、あっさり先延ばしされるとそれも面白くない。複雑な心境で、ルシファーは返答を避けた。黙り込んだルシファーの頬に入った飴を突き、リリスが笑う。


「あのね、魔の森は5年もしたら起きるわよ。だってうたた寝だもの」


 魔王城から離れたためか、活火山がある場所のせいか。リリスは魔の森の状況をある程度掴んでいる様子だった。そこから森に関する幾つかの質問に答え、アスタロトは満面の笑みで頷いた。


「助かりました。では母なる森が目覚め次第、結婚式を行いましょう。準備は5年後を目処に進めます」


 忙しいスケジュールだが、何とかなるなら任せよう。ルシファーが下手に口出ししたり、余計な手出しをすると邪魔になる。文官の試算や現場の動きは、慣れた者に任せるのが一番だった。


 ルシファーはよく知っているのだ。魔力や魔法に関してはほぼ万能に近い自分だが、専門に培われた技術や知恵を伝承する者には敵わないことを。どの分野であれ、専門家がいるなら一任する。その責任を取り許可を出すのが魔王の仕事だった。


「雛はどうするの?」


 リリスの疑問に、アスタロトが物憂げな息を吐いた。アムドゥスキアスを母親と刷り込まれたため、今もデカラビア子爵家で火を吐いて暴れている。預けるのは無理があるだろう。だがあの翡翠竜に育てられるのか。その懸念を言葉にした途端、ルシファーも唸った。


 甘えん坊でドM体質の小竜だ。面倒は見たとしても、雛の将来が不安だった。ドM体質に育ったらどうしよう。一番理想的な解決は、実の親が名乗り出てくれることなのだが。


「一度魔王城に持ち帰るか? ピヨがいれば、何とかなるかも知れん」


「何とかならなかったら、火口に放り込みましょうか」


 無責任な発言をする側近をちらりと見て、ルシファーは隠れて笑った。どうせそんなこと出来ないくせに。存外甘いのだ。婚約者のそんな仕草に、リリスも釣られて頬を緩めた。

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