1274. 未来の相談は尽きなくて

 主君リリスが泥酔したことを知る由もない大公女達は、それぞれに視察をこなしていた。


 ルーサルカとペアになったルーシアは水の精霊族のため、水辺や沼地の種族を中心に回っていく。水辺の近くには獣人も多く住んでいるため、そちらも同時に回れる効率の良いコースだった。準備や根回しは、言わずと知れたアスタロトである。


 順調に数カ所を回り終えた2人は、大きな湖を見つけて休憩していた。何処かから水が流れ込むらしく、水面が常に揺れる。ふわりと落ちた木の葉が、右から左へと流れた。どうやら右側が上流らしい。


「ルーシア、いつ結婚するの?」


 幼い頃から許嫁関係にある風の精霊族のジンを思い浮かべ、ルーシアはうーんと考え込んだ。


「本当はね、16歳くらいで結婚する予定だったの。でもリリス様の側近になったから、少し遅らせると思うわ」


「そっか。私はどうしようかな」


 質問したルーサルカは、どうやら悩んでいるらしい。アスタロト大公の執着ぶりからして、数十年は無理じゃないかしら。その間にアベルが老けないといいけど。言葉に出せない懸念を察したのか、ルーサルカが苦笑いする。


「お義父様は優しいし、もっと大人になってからと思ったけど……イザヤさんとアンナさんが結婚したでしょう? だから焦っちゃって」


 アベルは魔族の中でも短命な方だ。早く結婚しないと老けて寿命を全うしてしまう。寿命が短いのは悲しいけど、それを理由に別の相手を選ぶ気はなかった。だから困っているのだ。


「リリス様が仰ってたんだけど……合同で結婚式をしたらどうか、って」


 思わぬ案に、目を見開く。結婚式というのは種族ごとに違う。精霊族は式自体が長く、10日前後は儀式がびっしり詰められる。逆に獣人は人前式で、誓いの言葉は番となる相手やその家族に向けたものだ。あっさりと数十分で終了し、その後は飲み会だった。


「同時は無理だと思うわ。違いすぎるもの」


「そうよね。でも種族ごとの儀式は、合同結婚式の後でも出来るわ。全員でお揃いの衣装とかも素敵よ」


 ルーシアの思わぬ提案に、目を瞬かせた。そういえば、公式衣装としてグレー系のドレスが作られた。個人を示す色と紋章が入ったドレスは素敵だったし、気持ちが引き締まった。あの時のように、お揃いだけど個性を出したドレスも捨てがたい。色付きのドレスや衣装は、その後の儀式でそれぞれに用意すればいいし。


 ぐらりと傾くルーサルカは、ふと思ったより長く休んでしまったことに気づいた。肌寒さが忍び寄ってくる。


「ルーシア、その話は後よ。早くしないと次の村に着く前に日が暮れちゃうわ」


「あら、本当! 急がなくちゃね」


 慌てて立ち上がり、ルーサルカが走り出す。獣人特有の足の速さを生かす彼女の袖を掴んだルーシアは、ふわふわと浮いていた。精霊族の体重はゼロに近いため、このような方法が使えるのだ。逸れないよう手を繋がなくても、全力で走る獣人についていけた。


 見えてきた村の手前で速度を落とし、身だしなみを互いに確認してから微笑みを浮かべる。出来るだけ愛想良く、好かれる大公女を目指して。村に足を踏み入れた。


「あらぁ! リリスちゃんの側近さんよね。昔、まだ幼い頃にリリスちゃんが来たのよ」


 あっという間にラミアが取り囲み、2人を村長の元へ誘導する。下半身は蛇だが、上半身は大きな胸の女性ばかり。過去のリリスの話を聞きながら、2人は人形を渡された。反射的に抱きしめると、可愛いと絶賛される。女性ばかりの村は、可愛い少女に飢えていたらしい。この村での大公女訪問は、大成功となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る