1003. ひとつ終わると次か
応援でさらに数人の侍女を連れ、リリスも戻った。単純な作業なのだが、だからこそ疲れるのも事実だ。魔法で数秒で片付く作業を、黙々と手作業で分類した。
「こういうの、意外でした」
アンナが呟く。なんでも魔法陣で解決できると思っていたので、魔族は本当に優れた種族だと感心したのに……なんとも原始的な作業である。
「こんなもんだろう。一長一短というやつだ」
イザヤは淡々と妹に答え、ひとまず拾った書類の向きだけ直す。そこで思いついたように分業化を提案した。拾うだけの人、向きを直す人、大きく分類する人、さらに細かく箱に片付ける人。そうすれば作業は効率が良くなるのでは?
彼らしい提案に、ルシファーが飛びついた。性格だろうか。リリスは拾うだけを立候補し、ルシファーは最後の一番面倒な分類を担当した。手分けして作業を始めた部屋の外で日差しが傾き、やがて夕日が沈み切って暗くなる頃、ようやく書類は分類が終わった。
部屋を出た当初と同じ、机にきちんと積まれた書類を見て感動する。途中で空腹を覚えたリリスにより、全員の口に飴が詰め込まれていた。
「元通り、ね」
「ああ、みんな助かった。ありがとう」
リリスとルシファーが顔を綻ばせ、その場で手伝った侍女や日本人を労い、その場は解散となった。日本人に関しては、帰りが遅くなったのでアベルの分も含め、夕食の唐揚げを手土産に持たせる。帰宅して食事の支度をせずに済むと、アンナは大喜びで持ち帰った。侍女達にもボーナスが確約され、全員ホクホク顔だ。
「イポス、一緒に夕飯しましょう」
「いえ。今夜は父と約束がございますので、また今度」
断り文句かと思えば、すぐにサタナキア将軍が迎えにきた。
「お前は残ったのか」
人族殲滅戦なら、真っ先に飛び出すと思った。意外な人物が残ったものだと呟けば、彼は苦笑いする。
「部下に、前回も出たのだから手柄を譲れと言われましたので、今回は魔王城の警護担当です」
こんなことなら前回を譲ればよかったですな。からりと笑った将軍は、迎えにきた娘と腕を組んで退室した。残された2人と1匹は顔を見合わせる。
「アデーレを誘う?」
「いや、オレ達だけでいいだろう」
今日は疲れたので、夕食を食べたらゆっくりしたい。思わぬハプニングを笑うルシファーに、リリスも素直に頷いた。いつの間にか退室していたアデーレが、別の侍女とともに食事の準備ができたと伝えにくる。彼女にも休むよう伝え、2人は自室に移動した。今度こそきちんと窓が閉まっているのを確認し、書類をすべて箱に入れて蓋をしている。
「今日はリリスの好物のコカトリスの唐揚げを用意したぞ」
「嬉しい! ヤンもたくさん食べるのよ」
「ご相伴に預かりますぞ」
どこでそんな言葉を覚えたのか、雑談に興じながら自室へ移動する。奥の角部屋は直接廊下に面していないため、手前のリビングとして使用する部屋の扉を開けた。用意された夕食の匂いが漂う。食事専用の部屋もあるのだが、リリスを拾ってから使用するのはもっぱらこちらの部屋だ。
開けた扉の先で、何やら動く影があった。
「曲者ですぞ!」
唐揚げ泥棒だと勇んだヤンが飛びかかり、小柄な影を押さえつけた。
「僕だよぉ」
口に唐揚げを頬張ったレラジェの姿に、リリスは手を叩いて「見つかった」と喜び、厄介ごとの予感にルシファーは額を押さえた。
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