626. お邪魔しました
「……っ、成功したね」
駆け込んだルキフェルが「はぁ」と大きく肩で息をする。新たに設置した魔法陣に仕掛けをした。ルシファーとリリスの魔力を特定し、彼らだけ城内で転移が使えるように条件付けしたのだ。
緊急時に間に合わないという最悪の事態を防ぐための措置だが、仕掛けた魔法陣の説明中に、リリスの声に反応したルシファーが転移してしまった。無事を確認してほっとしたルキフェルの後ろで、焦って追いかけたベールが大きく息を吐いた。
「……ご無事でした、か」
城内で転移できるのは2人だけ。大公もその対象に含まないことで、他の貴族からの反発を防ぐ目的もある。しかし今回のようにルシファーが転移してしまうと、追いかける側はかなり大変だった。間違いなくリリスのいる部屋に向かったと意見が一致した2人は、全力で城内を横断した形なのだ。
「疲れたぁ」
ぺたんとへたり込んだルキフェルを何とか支え、ベールも紅潮した頬を緩ませる。必死な自分達がおかしくて、平和な今が擽ったくて、笑みがこぼれた。普段は厳しい顔をしている男の忍び笑いに、周囲がどよめく。気にせずソファにルキフェルを運んだベールが、崩れるように隣に座った。
つい先ほど、やたら色っぽいベールを見た影響が抜けていない少女達が頬を赤く染める。むっとした顔の翡翠竜がよちよち歩きしながら、婚約者に歩み寄った。強引に膝の上にのぼると、小さな手でぺちっと頬に触れる。
「他の男を見て赤くなるとか、やめて欲しいんだけど」
「心の狭い奴めっ!」
レライエがさらに耳まで赤くなる。焼きもちめいた態度を見せる婚約者に、羞恥が限界に達したらしい。尻尾を掴んでアムドゥスキアスを放り投げた。悲鳴を上げながら飛んでいく不幸な翡翠竜が、開いていた庭への窓から外へ飛び出す。ドラゴン種の怪力は広く知られているので、かなり遠くで何かにぶつかるまで止まらないだろう。
茫然と見送る同僚をよそに、赤くなった首や頬を手で仰いでいるレライエを掴んだイポスが目配せして外へ出る。アスタロトがルキフェルとベールを促し、ベルゼビュートも呆けた少女達を連れて部屋を出た。最後に扉を閉めたのはイザヤと腕を組むアンナだ。
「お邪魔しました」
いろいろな含みを持たせた小さな挨拶と同時に、ドアが閉まる。部屋の中には、ルシファーとリリスだけが取り残された。いつの間にかヤン達も窓から出て行ったらしい。
騒動の大きさにびっくりして固まった2人は顔を見合わせ、同時に吹き出した。笑いながらベッドの上にゴロンと寝ころぶリリスに引っ張られ、覆いかぶさる形でルシファーが両脇に手をつく。
「さっきの続きだ。覚えていない半日で、どれほどリリスを傷つけたか。今のオレでよければ、ずっとそばにいて欲しいし、側にいたい」
「私も同じよ。誰より大切なの、愛してるわ」
リリスの告白は甘く、誘われるように顔を近づける。そこでいつも邪魔が入るのだが、今日はさすがに誰も来ない。互いに視線を絡めたまま、触れるだけの接吻けをかわした。
「……もう一度」
「キスだけね」
許してくれる恋人の甘さに酔いながら、ルシファーは重ねるキスをもう一度……愛しいお姫様に贈った。
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