1220. 災害復旧現場で大活躍?

 伐採される森の木々を使った復興作業は順調に進んだ。積極的に得意分野を生かして作業に参加する民が多く、人手は足りている。長い歯を持つネズミに近い魔獣が伐採に協力し、巨人族もこぞって木こり作業に従事した。その木々を魔法で整えるエルフや精霊の脇で、ドワーフが長さを調整して製材していく。


 流れ作業的に行われる木造住宅の建設と合わせ、ドラゴン種が石運びを買って出た。石材を切り出して運び、魔王城を作った時のように石造りの建物を組み立てていく。デュラハンや吸血種も協力を申し出たため、昼夜を問わず作業は進んだ。あまりにも順調すぎて、逆に怖いくらいだ。


「事故が無いように注意してくれ。トラブルがあれば自己解決せず、オレや大公の誰かに申し出るように」


 各所で繰り返したセリフに、ダークプレイスの住人が「おう」と声を上げる。彼らは魔王城の城下町で被害がわりと少なかったこともあり、炊き出しや風呂の出張などに精を出していた。竜巻で壊れた家も修繕中で、住人は周囲の厚意に甘えて近所で寝泊まりする。


「人族の騒動さえなければ、魔族の結束は固いのですよ」


 彼らが邪魔だったんです。やはり滅ぼして正解でした。物騒な感想を漏らし、満足そうなアスタロトが頷く。大雨による被害なので、人族壊滅は関係ないんじゃ? そう思っても、うっかり指摘すると思わぬ古傷を抉られそうでルシファーは黙る。沈黙は最高の逃げ道だった。


「アシュタ、あの人具合悪そう」


 リリスがくいっと袖を引き、デュラハンの一人を指さす。人を指さしてはいけませんよと注意しながらも、アスタロトは彼女の観察眼に驚いていた。首がないので顔色を窺うことが出来ない。言われてみれば、確かに動きが少し鈍いかも知れないが……。


「休ませましょう」


「そうしてあげて」


「ケガなら治癒出来るぞ」


 アスタロトの早い決断で、彼は作業の列から外された。まだ働けると口にしたが、リリスやルシファーに押し切られて諦める。魔族の中で人気の高い2人に休むよう頼まれたら、突っぱねることは難しかった。作業の手を止めた途端、張り詰めた緊張が解けたらしい。馬の脚ががくりと折れる形で座り込む。


「具合が悪いのは、熱かしら」


 リリスが触れようとしたが、その前にルシファーがデュラハンの手を握った。温度を確認し、過去の記憶と照合していく。デュラハンは魔族の平均体温より低いのが普通だが、やや温かく感じられた。


「魔王城の中庭に送ろう。ルキフェルがいるから診てもらった方がいい」


 握った手から治癒の魔法を流し込んでも、さほど改善されないことにルシファーが懸念を示す。同族の中から小柄な者を選んで介助につけた。


「よく気づいたぞ、リリス。お陰で倒れる前に助けてやれた」


「動きが違うから気になったの。早く治るといいわね」


 ケガは小さな切り傷程度だったので治したし、あとはルキフェルに任せて大丈夫だろう。この現場での激励も一段落した。次の現場に移動しよう。アスタロトはまだ作業の手順確認があるらしい。彼を置いて移動した先は、沼地だった。まだ泥水は澄んでおらず、暮らしていた毒カエルや蛇の無事は確認されていない。何処かへ逃げ出した報告は受けていた。


 溢れた水にすべて押し流されたため、浮島が不足している。特殊な藻を使って編んだ浮島の不足は、そのまま居住地の密集に繋がる。トラブルが予想されるため、複製できないか相談されていた。検討した結果、浮島を丸ごと複製するのではなく、原料の藻を大量に増やすことに決まる。


 エルフの協力を仰ぐ約束をするルシファーの横で、藻を手にしたリリスが目を輝かせた。それを泥水に浸し、魔力を流している。不思議そうに見つめるリザードマンやルシファーの前で、リリスはひとつの奇跡を起こした。

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